「来月の皇太子の十五歳の誕生パーティーに、俺が伯父様や父さんの代わりに出る事になったんだ。だから暫く領地を離れて帝都に行かなきゃいけない」
「そんな……お兄様と暫く離れ離れなんて」
「俺もそれが本当に気がかりで。ローズも連れて行けたら良かったんだけど、お前はまだ十三歳だからな」
「こんな風習、今すぐ無くなるべきですわ!」

 ぷんぷんと怒りに頬を膨らませるローズニカの頭を、レオナードは宥めるように優しく撫でる。
 ディジェル大公領の変な風習、それは『子供は十五歳になるまで領地から出てはならない』といったもので……大昔に大公領が妖精か何かの祝福を受け、それによってこの領地の者達は強靭な肉体を持って生まれるようになった。

 その祝福がきちんと体に定着するまでに十五年かかるから、と言われているらしい。真偽は定かではないが、十五歳になるまでに領地から出てしまえば、祝福が定着せず体に甚大な被害──言うなれば、後遺症が出てしまうらしい。
 その為、この土地に生まれた人々は十五歳になるその時まで領地から一歩も出ないまま生きている。祝福と言うが、最早一種の呪いである。

「帝都には色んな物があるだろうし、何かお土産も買ってくるよ。何がいい?」
「お土産……ならまだ読んだ事の無い物語がいいです! ああでも、土産話でも全然大丈夫ですよ。お兄様が見聞きした外の世界の事を沢山聞きたいですわ」
「そうか。土産話が出来るよう、積極的に動き回る事にするよ」
「ふふっ、楽しみにしてますね」

 美しい兄妹は仲睦まじく微笑み合う。この一週間後、レオナードは数名の召使と護衛を連れて帝都へ向けて旅立った。
 長い旅路の中で、彼は幾度となく『何も起きませんように』とパーティーでの己の無事を祈っていたとか。