彼の妹であるローズニカは箱入り娘であり、結構なブラコンであり、これまたその美少女っぷりから領地のアイドル的存在になっている以上……彼女に婚約者だとかを期待するのは難しい。
 ならばテンディジェルの血筋はどう守るのだと。かねてより浮上していたこの問題にそろそろ終止符を打ちたいというのが、ログバードの本音であった。

 この問題を解決出来るのは最早レオナードのみ。だからこそ、ログバードはいい女をさっさと見つけろ、なんて乱暴な言い方をしているのだ。
 しかしこれはまだ優しい方である。何故ならレオナードに自ら選ぶ機会を与えているのだから。やろうと思えば適当に見繕った女と婚約させる事も可能だと言うのに。
 なんのかんの言って、ログバードはかなりレオナードに甘いのである。

「お前は選り好みし過ぎだ。というか理想が高過ぎる。何だ、物語に出てくるような幻想的なお姫様だとか妖精のお姫様? だとか……」

 幼い頃よりローズニカと共に様々な絵本を見ていた影響か、レオナードの理想はかなり特異なものとなっていた。……これも、彼の婚約者選びが全く進展しない理由の一つである。

「ああああああああっ! 分かってるから声に出さないで! うぅ……分かってるから、そんな人実際にはいないって分かってるから……ちゃんとお嫁さん探しだってするからぁ!」
「まぁ、帝都にはお前の理想に近い女の一人や二人はいるだろうよ、ワシは知らんが」

 耳まで真っ赤にしてレオナードが慌てふためく。己のメルヘンチックな好みは自覚しているのものの、それを他人に改まって言われるのはかなり苦しいらしい。
 疲弊したレオナードに向け、「来週には出発出来るよう準備しておけ。城にはお前が名代で出席すると返事をしておくからな」と追い討ちをかけるログバード。

 それにレオナードは「はーい……」とため息と共に返して、とぼとぼ部屋を後にした。
 自室へと戻る前に、彼はすぐ近くにある妹の部屋に立ち寄った。コンコン、とノックをして「入るよ、ローズ」と入室する。

「──お兄様。伯父様からの呼び出しはどうでしたか?」

 レオナードより少し明るい鈍色の長髪に薄紫の瞳を持つ儚げな美少女が、ニコリと微笑んで彼を迎え入れる。
 彼女はローズニカ・サー・テンディジェル。レオナードより三つ歳下の妹で、自他共に認めるブラコン。そして、レオナードと同じような価値観と感性を持つ変わった少女。
 流れるように彼女の隣に座り、レオナードは先程の事を話し始める。