「っ、本当に……良かった……姫さんが、もう二度と目覚めないかもって……俺、すげー、心配……で……!!」

 エンヴィーが絞り出したような声で紡ぐ。その言葉から痛い程に伝わる心配や不安に、アミレスの羞恥心は次第になりを潜めていった。

「アミィっ! ごめん、ごめんね……ボクがもっと君の傍にいればこんな事には……っ」

 ぼふんっ、と元の大きさに戻った猫がエンヴィーの背中を登り、アミレスと目線を合わせようとする。その中のヒト──……精霊界に在る彼は強い後悔で拳を震えさせていた。

「とにかく、お前が無事に目を覚ましてくれて良かった。頼むから、もう二度とこんな事にはならないでくれ」

 身動きの取れないアミレスへとゆっくりと歩き寄ったマクベスタが、力の抜けた微笑みを浮かべた。
 それを見たカイルは思わず「ヴッ……」と謎の呻き声を上げ、慌てて咳払いする。

「げふんごふん……おはようさん、お姫様。百年の眠りにつくような事にはならなくて良かったよ」

 どこかクサイ台詞を吐きつつも、その表情には確かな安堵が見受けられる。これはカイルなりの照れ隠しであった。
 こんなにも皆が心配してくれていた事を知り、アミレスの心はじんわりと温かくなった。

「──うん、おはよう。皆」

 三週間。短いようで長いその時間を経て、ようやく彼等彼女等の夜は明けた。
 久しぶりに見たアミレスの眩しい笑顔が、ようやく彼等彼女等の長い夜に日の出を齎したのだ。
 この報せはすぐにマリエルやホリミエラ達の元へも届けられた。これにマリエルは涙して喜び、ホリミエラも夫人と身を寄せあい安堵した。
 これにてマリエルは侯爵業に集中して取り組む事が出来るようになった。他有力家門の助力もあって、きっと、あと数ヶ月もすれば──……王女への謁見とて叶うやもしれない。
 十二月。銀世界が広がる帝都の街並み。連続殺人事件やら侯爵家爵位簒奪事件で騒ぎになっていた事がまるで嘘かのような、静寂の夜。

「もう少しだけお待ち下さい、姫様。必ずや…………貴女に誇れる私となってみせますから」

 あまりにも眩い星空を見上げて、彼女は誓った。