その後、シルフ達に会いに行こうと全員で厨房を後にする。当然、今回もアミレスはイリオーデが抱き抱えている。その為、イリオーデに向けられるメイシアとシュヴァルツとナトラの射殺すような視線が凄まじい。
 人の目がある恥ずかしさのあまり顔を両手で覆っていたアミレスは、それに気づかなかったが。

 そうやって歩いてゆくこと十分程。メイシアが「こちらで皆様仕事をしていらっしゃる筈です」と扉を指す。
 イリオーデから降ろして貰い、ドアノブに手をかけた所でアミレスはハッとなり、逡巡する。

(これ、このまま普通に開けて入ってもいいのかしら……だって三週間よ。皆に凄い迷惑と心配かけたのよ? それなのに平然と入ったら流石に空気読めなさすぎるわよね。ちょっと趣向を凝らした方がいいわよね、これ)

 別にそんな事は全く無い。だが残念な事に今のアミレスは不調も不調。いつものように働く頭を持ち合わせていないのである。

「てっててーん! みんなぁ、おっはよー!」

 覚悟を決めたアミレスは、どこかで聞いた事のあるメロディを口ずさみながら扉を開いてやたらと元気に振舞った。
 するとどうだろう……エンヴィーは目を点にして固まり、マクベスタは手に持つ紙を全て落とし、巨大な猫は開いた口が塞がらず、その中のヒトはガシャンッ……とティーカップを落とし、カイルは戸惑いつつ「だ、大成功……??」と呟いた。
 まさに凍りついた空気。アミレスは、この空気からして入室に大失敗したのだと瞬時に理解した。

(あああああああああっ! 恥ずかしぃぃいっ!! ヤバい何この空気絶対零度ってこういう事言うのかってぐらい心も体も寒いんだけどこの空気! 控えめに言って地獄!!!!)

 耳まで真っ赤にして、笑顔を引き攣らせる。
 あまりの恥ずかしさからプルプルと顔や体を震えさせ、

「あの、えっと……ごめんなさい失礼しました……っ」

 涙声で言い残してアミレスは扉を閉めようとした。しかし、瞬く間に移動した険しい顔のエンヴィーがそれを当然のように阻止する。
 扉が閉まる寸前に、その扉本体を掴んで強引に開ける。それによって倒れ込んで来たアミレスの体を受け止めた。あまりにも一連の流れが早すぎて、イマイチ理解の追いついていないアミレスが頭に疑問符を浮かべる中。
 エンヴィーは泣き崩れるかのように両膝をつき、アミレスの事を抱き締めた。