「なぁ聞いたか、あのマイク達が道端でボロボロになってたらしいぞ」
「あいつ等相当恨み買ってただろうからな、因果応報ってヤツだな」
「それもそうだな、ざまぁないぜ」
「しっかし誰の仕業なんだろうな、あいつ等それなりに腕が立つから誰も手出し出来なかったのによ」

 気がついたら、私はその会話に聞き耳を立てていた。
 ……もしや、そのマイク達とやらはさっきの野郎共かしら。道端でボロボロになった男達なんて、普通一日に何度も現れたりしないだろう。
 だから恐らく、彼等の話すマイク達とやらはあの男達だ。
 それに、意地悪男が言っていた奴隷商の存在……私は運良く抵抗する術を持っていたから事なきを得たけれど、他の女の子達はそうはいかなかっただろう。
 嫌だと抵抗しても誘拐され、やめてと言っても乱暴されてしまったのだろう。
 ……そう、考えると──私は、どうしても許せない気持ちになる。
 相手は見ず知らずの少女達だ。私の目的に必要な訳でも無いし、危険を晒す必要だってない。だけど、それでも見過ごせない。見逃せないんだ。
 これまでも誰かが苦しみ、今も尚どこかで誰かが傷つき、これからも誰かが悲しむのであれば……私はその諸悪を滅ぼしたい。
 屑みたいな男達の身勝手な欲望で罪のない女の子達がその人生も尊厳も奪われたんだ。同じ人として、同じ女として絶対に許せない。

「……スミレちゃん、どうしたんだ? そんなに険しい顔して」

 リードさんが心配そうにこちらを覗き込んで来た。
 奴隷商への怒りがそのまま顔に出ていたらしい。

「……なんでもありません。ちょっと気分が悪くて」

 とりあえず笑顔を張りつけ、リードさんに心配かけまいとする。
 そして私は剣を手に取り立ち上がる。
 善は急げと言う、今この時も苦しんでいる女の子や子供がいるかもしれないんだ。一秒でも早く私はその人達を助けたい。
 ケイリオルさんに任せてその対処を待っているんじゃ遅い。今日、助けにいかないと。

「私はそろそろ帰りますね。代金は本当にお任せしてもよろしいのでしょうか」
「勿論だとも。女の子の一人歩きは危険だから家まで送ろうか?」

 リードさんが優しさからそう提案してくる。しかし私は家に帰るつもりも無ければ、もし帰るのだとしてもリードさんに送って貰う訳にはいかないのだ。
 なのでお気持ちだけ受け取って、丁重にお断りさせて頂こう。

「大丈夫です、ここから家近いので。それにもしもの時はちゃんと応戦します」

 剣を少し掲げてニッと笑ってみせる。リードさんはまた眉をひそめて、

「君、本当に僕の話聞いてないね……危ないって何度言えば分かるんだ……」

 とため息をついた。そんなリードさんに向けてお辞儀して、私は別れを告げる。

「色々とお話を聞かせてくださりありがとうございました。また会う事があれば、その時も仲良くしていただけたら幸いです」

 最後にもう一度会釈して、私は店を出た。空が徐々に茜色に染まりつつある。
 この後どうやって奴隷商の拠点に行くかを考えなければならない。
 デイリー・ケビソン子爵の屋敷にその拠点があるとも考えられない……そもそも帝国の目を欺いて来たんだ。そう簡単には見つからないだろう。
 ならばどうするか……情報を集めるというのも正直時間がかかりすぎる。
 大通りを歩きながらそう考えていると、

「……ただいま、アミィ。ごめんねずっと一人にして……」

 ずっと私の肩に乗り続けていた猫がようやく動き出した。猫シルフは耳をぺしょ……とさせている。
 なんだろう、寝てたのかな。シルフの声が少し疲れているというか、いつもの元気が無いというか。