「おいおい、どこの家門の騎士だか知らないが礼儀がなってないんじゃないか? 俺達は貴族だぞ。どうせ平民なんだろ、貴様。こんな所に相応しく無いのは貴様の方だろう!」
(おまっ……おまぇえええええええええええええ!? なんて事吐かしてんだ! 見て分からないのか、あれがただの貴族の騎士な訳ないだろ! あんなのどう見てもシャンパージュ家の騎士だッ、お前今自分が何に喧嘩売ったか分かってるのかこの馬鹿野郎!!)

 鼻持ちならない顔で騒ぐもう一人の男の発言に、脂汗を滲ませる男は首を凄まじい勢いで曲げて内心で絶叫していた。その顔は真っ青に染まり、首元には滝のような汗が流れている。
 この国の大抵の貴族にとって、嫌われ者の野蛮王女よりもシャンパージュ家の方がよっぽど恐怖の対象なのである。
 もう一人の男の発言に引っ張られ、護衛として連れて来ていた騎士達も「そうだそうだ」「どこの家門の騎士か名乗れ!」と野次を入れ始めた。

 騎士たるもの、その立ち姿や纏う空気だけで相手の大まかな力量を推し量れる筈なのだが……彼等の目は節穴らしい。どうやら騎士としてまだまだ未熟なようだ。
 きちんと鍛え上げられた騎士ならば、イリオーデの実力など一目見て分かる事だろう。
 騎士として生まれ騎士として死ぬ事を目指す彼は生粋の騎士であり、剣を捧げし相手──仕える相手がいてこそ、その真価を発揮する。

 マクベスタ相手に仲間達と模擬戦をした時よりも、今のイリオーデは格段に強くなっている。ランディグランジュの神童と呼ばれた過去に恥じない、帝国の剣と呼ぶべき圧倒的な強さを持つのだ。

(面倒だな……全員殺すか?)

 そのイリオーデは心底呆れ返っていた。騎士道とは一体。
 だがここで、しかし、と彼は思い悩む。

(王女殿下のお住いであるこの神聖かつ高貴な東宮をこのような屑共の血で汚すなど許されない。ならばどうしたものか……)

 真顔でうーん……と考え込むイリオーデの様子に、無視されたと思い込んだ男が「お前ッ、何様のつもりでまた無視して……!!」と激昂した時。
 ガチャリ、と東宮正面玄関の扉が開かれた。そこから現れたまさかの人物に、その場にいた誰もが目を見開いた。

「わたくしの宮の前で……何を騒いでいるのかしら」

 いつもより乾き張り付いた声と、舌足らずな言葉で。純白の寝巻き(ネグリジェ)の上に厚手の布団を羽織り、儚げな雰囲気を纏いその少女は現れた。