「……はぁ。高貴なるこの場に相応しく無い人間が何の用だ。身の程を弁えて早急に失せろ」

 あまりにも男達が五月蝿いので、イリオーデは渋々対応する。侮蔑を含んだその睨みに、騎士達もビクッと肩を跳ねさせる。

(何なんだあの男……ッ、帝国騎士団や兵団の制服ではないが……どこの家門の騎士だ? 見るからに上質な……変わった服を着ているが──まさか、シャンパージュ家の騎士か!? ランディグランジュ家とシャンパージュ家は私的な騎士団を持たないのではなかったのか!?)

 貴族の一人がイリオーデの所属を推測し、恐怖する。しかしそれは間違いである。
 イリオーデの着ている制服は確かにシャンパー商会で作られた物ではあるが、イリオーデの所属は王女の私兵団。シャンパージュ家の騎士では無い。
 その特異性から、ランディグランジュ家同様に私的な騎士団を持とうとしなかったシャンパージュ家が、ついに騎士団を持ったのだと。その目に馴染みのない系統の上質な服を見て貴族の男は判断した。

(ただでさえシャンパージュ家に支持される王女の粗探しなど容易ではないのに、こんな騎士がシャンパージュ家から派遣されているだと!? 巫山戯るなッ、何故あのシャンパージュ家が野蛮王女相手にそこまでするのだ!!!?)

 男の頬を脂汗が伝う。あのシャンパージュ家に雇われるぐらいなのだから、相当な手練であることは確か。ならばこの場をどうするか……と男は必死に悩み始めた。

(今すぐこの場を離れる事こそが最善ッ、シャンパージュ家の騎士相手にうちの騎士なぞが勝てる訳なかろう! 一瞬にして負けるに決まっておるわ!!)

 全くもってその通りではあるが、己の騎士を信用してなさすぎである。
 そして、男がそう逃げる事を決意した時だった。もう一人の貴族の男が偉そうな顔で大口を叩く。