(……アミレス、早く目を覚ましてくれ。お前が笑っていてくれないと……オレは…………)

 その端正な顔に影を落とし、悲痛から僅かに瞳を細める。彼の人生にとって何よりも大きな存在であるアミレスが一向に目を覚まさない為、彼も本調子では無いのである。
 贖罪と初恋が為に生きる男、マクベスタは軋むように痛む胸の中で、ただ切実に願っていた。脳裏に痛い程焼き付いているかの少女の笑顔を、何度も思い浮かべて。
 ──それと同時刻。東宮の前にて、

「おいそこのお前! 聞いているのか!!」
「何様のつもりで無視しているんだ、貴様!」

 眉尻をつり上げて醜く喚き散らす輩が現れた。騎士らしき人間が五人程と、その後ろで仁王立ちをする偉そうな男が二人。
 その者達は東宮の正面扉の前に立つ一人の青髪の美丈夫に向けて叫んでいた。しかしその全てを無視するは変装もしていないイリオーデ。
 基本的にアミレスの部屋の前から離れようとしないイリオーデではあるが、ここ数日はこうして東宮の入口そのものの警備をしている。こんな風に、不敬な輩が雨後の筍のように沸いてくるからだ。
 彼等の目的は一辺倒。どうにかしてアミレスの粗を探そうと躍起になり、わざわざ東宮まで赴いているのである。

 連続殺人事件の犯人確保に大きく貢献した上に以前より行われていた貧民街の計画……あれらによってアミレスの市民からの支持はかなりのものとなった。
 それだけでも少し厄介なのに、今やアミレスの派閥が生まれ、その筆頭にシャンパージュ家が。更にはララルス家とランディグランジュ家が王女派閥に与したと社交界は大騒ぎ。
 ララルス侯爵家は前当主とその肉親による不正により処刑され、家門は事実上の没落を迎えたが──……新たな当主が王女の慈悲に平伏し、ララルス家はシャンパージュ家の助けを受けて再建に向かっており、それに感銘を受けたランディグランジュ家もまたララルス家を支援し王女派閥に与した。

 何なら、他の侯爵家や大公家や公爵家までもがララルス家を支援し、下手したら王女派閥に属してしまうやもしれない……そんな噂や憶測が社交界では飛び交っているのだ。
 それは当然、皇太子派閥の人間にとって非常に不味く美味しくない展開。その為、これ以上アミレスが出しゃばる事が出来ぬよう、連日皇太子派閥の人間が東宮に押しかけてはイリオーデやシュヴァルツやナトラに返り討ちにされている。
 そして……この者達もそれまでの輩と同じ末路を辿る事であろう。