(俺、マクベスタのルートだけ滅茶苦茶周回したからメイシアの事はすげぇ記憶に残ってんだよな。ゲームのメイシアはマジで人形、っつぅか…………魔女って呼ぶに相応しい影が濃かったけど、このメイシアは全然人形って感じじゃないな。これがアイツの努力の結果、か……ホントすげぇよ、お前)

 ふっ、と柔らかくカイルは微笑んだ。
 様々な定められた運命を変えては歯車を狂わせて来た一人の少女を脳裏に思い浮かべ、カイルは己の未熟さを痛感していた。

(俺なんて、この数年でした事はサベイランスちゃんの制作と王位継承権の放棄ぐらいだぜ? それなのにお前ってば何でそんなに活躍しちゃうわけ?)

 人形のごとき魔女であったメイシアを変え、苦労して生きる筈だったディオリストラス達に新たな道を示し、オセロマイト王国といずれ厄災となる緑の竜を救った。

 マクベスタの大事なものを守り、ミカリアに初めての宝物を与え、ロアクリードに今一度己と向き合う覚悟を抱かせ、失意の中自ら命を絶つ未来をハイラとイリオーデから奪い、フリードルに殺される殺人鬼を守り望みを叶え、記憶喪失のサラに記憶が戻るきっかけを与えた。

 愛する妻も子もどちらも失い絶望する筈だったホリミエラからその未来を奪い、ある未来では話し合いすら出来ずに死んだイリオーデとアランバルトに話し合いをする機会を与え、ケイリオルの冷酷な仮面を溶かし、精霊と悪魔に愛され気に入られた。

 己が死なない為にがむしゃらに生きている──……そう言うには、アミレスはあまりにも多くの運命を変えていた。彼女が直接関与していないものも多いが、全てが彼女の変えた運命から連鎖して起きた改変によるもの。

 同じ転生者なのに。同じ価値観を共有する仲間なのに。それなのに、どうしてだろうか。
 こんなにも運命を変え、それでも決して立ち止まらずに前に……その目標に向かって進み続けるアミレスに。カイルは浅ましい憧憬を、幼子のような嫉妬を抱いていた。

 もし、俺にもそれだけの行動力と覚悟があったなら。カイルはこの数週間で何度もそう考えていた。そしてその度に、『どこまで行っても、俺は結局口先だけの人間なんだよな』と己の無力さに打ちひしがれていた。