「貴女が私と一緒に幸せになろうって言ってくれた時、本当に凄く嬉しかったの。だからね、私は貴女と一緒に幸せになりたい。貴女が幸せになってくれたら、きっと私も幸せになれるから……だから私の望みは気にしないで? 貴女の望みが叶うよう、今まで通りに好きなように生きてね」

 ああでもね、お父様と兄様が死んじゃうのは流石に耐えられないかも。とアミレスは申し訳なさそうに笑う。
 アミレスの望みは叶わない。それはゲームで決められた事だから。彼女の望みは叶わず、幸せになる事も叶わない。

 だからアミレスは私に幸せになる事を託した。私に、アミレスの幸せな結末(ハッピーエンド)が懸かってるんだ。ああもう、こうなったら──……絶対に、死ぬ訳にいかなくなったじゃない。
 ──死なない為なら本当になりふり構わず暴れるけど、いいの?
 グス……と鼻をすすりながらそう聞くと、

「貴女の好きなようにしてね。でもハイラにはあんまり迷惑をかけちゃ駄目よ?」

 アミレスはふにゃりと笑った。……もう既にハイラに散々迷惑を掛けまくってる事、ちゃんと知ってるんだろうなぁ。この感じ。多分、私越しに彼女も私の見た世界を見てる感じなんだろうし。
 アハハ……と乾いた笑いをこぼして、私はその言葉を受け流す。

 ──えっと、ありがとう。貴女の分までちゃんと幸せになってみせるからね。
 相変わらず夢の中では私の声は発音されない。しかしアミレスが喋れている事を考えると……後から割り込んだ偽物の私には発言権が無いという事なのだろうか。この体はそもそもアミレスのものなのだから。
 それならば、悪魔と話す時も私が話せない事にも納得がいく。

「よろしくお願いします、優しい貴女。ああでも、出来れば……ハイラも、イリオーデも、ケイリオルさんも、皆も幸せにしてあげてね」

 ──頑張ってみる。やっぱり、何事もハッピーエンドが一番だし……皆が少しでも幸せになれるよう、やれる限りの事はやってみるね。

「ありがとう、もう一人の私。どうか幸せになって。私はこれからもここにいるから、何かあった時は来てね」

 ──こちらこそありがとう、アミレス。私を受け入れてくれて。一緒に幸せになろうね。
 二人で笑い合う。すると、段々視界が霞んでゆく。ああ、きっと……私は目覚めるのだろう。
 無理やり意識を絶ってからどれくらいの時間が過ぎているのか。
 とにかく目が覚めたら、そうだな、きっと迷惑をかけただろうからナトラとシュヴァルツに謝ろう。ハイラにも今までの事を謝って、それから──……。


♢♢


 自分と同じ姿をしたもう一人の自分。異なる世界の知識や記憶を持ち、幸福な未来の為に奮闘するその少女が深く暗い精神世界《ゆめのせかい》から浮上するのを見送り、悲運の王女は独り呟いた。

「──ありがとう。私の……この世界の運命を、変えてくれて」

 夜空のように美しい寒色の瞳から一筋の光の雫を落として、彼女は微笑む。

「私の所為で、沢山貴女を苦しめてしまったから。ようやく貴女と話せたこの機会が、少しでも貴女の為になるといいのだけど」

 それはかの少女に向けられた餞の言葉。
 彼女自身抑える事の出来ない想いの力で、これまで少女を苦悩させてしまったから。それがこれからは少しでも減るようにと、彼女は『好きなように』と伝えたのだ。
 六年目にして初めて訪れた、少女と話せるこの千載一遇の機会に。

「どうか、貴女が……貴女だけは幸せになれますように」

 悲運の王女は、自分の代わりに艱難辛苦に立ち向かう少女の為に、手を合わせて祈った。