全てを知った上でそんな風に言ってのけるなんて……そんなの、私が勝てる筈がない。彼女の決意を、その強い渇愛を、私ごときが抑えられる訳がなかったのだ。
 私の中にあるのは幸せになりたいという曖昧な欲望と、死にたくないという普通の恐怖だけ。彼女のような強い想いは……何一つ無い。
 そう、暗い気持ちになって項垂れる。すると。

「……あのね。私、貴女の事も好きなの」

 ──えっ?
 アミレスの突拍子もない発言に、私は思わず間抜けな声をあげた。

「こんな出来損ないの私の事を好きになってくれた……憐れんでくれた貴女が、私は好きなの。こんな私に幸せになって欲しいって言ってくれたのは、貴女が初めてだったから」

 十五歳の彼女が私の事を優しく抱き締めた。先程とは逆の構図で、アミレスは私に向けて語りかける。

「だって、いつも私の事を考えてくれたから。私が気づけなかった事に気づかせてくれたから。怖くて聞けなかった兄様が私の事をどう思っていたかとか、ハイラが本当はとっても私の事を愛してくれていた事とか、ケイリオルさんが実は優しい人だった事とか。私じゃあ絶対に知れなかった外の世界の事を……友達って宝物を、沢山教えてくれたから」

 胸が温かくなってゆく。これは私の感情なの? それともアミレスの感情なの? 
 ああ、でも……どちらのものでも構わない。何だかこれは、とても心地いいから。

「だからね、貴女の望みを捨てたりしないで欲しいの。私はお父様と兄様の事を諦められないから、貴女も死にたくないって望みは諦めないで」

 目頭が熱くなってきた。彼女に優しく抱きしめられて、頭を撫でられて、語りかけられるこの時間が…酷く乾いていた私の心を満たしてゆく。