凍りついた空気も元通りになり、和やかな食事を終えて、我々は解散した。私は今日よりララルス邸に戻る事にしていたので、シャンパージュ伯爵が手配して下さった馬車でララルス邸にまで戻る。
 ……それにしても、本当に皆様優しい方々でしたね。
 ランディグランジュ侯爵だって……十年前に侯爵夫婦を殺害して爵位簒奪を成した人とは思えないといいますか、何だかとても不器用そうな印象を抱きました。

 あの様子ですと案外簡単に姫様を支持すると表明してくれそうですね。イリオーデ卿という切り札もありますし、ほぼ勝利は確定したようなもの。実にラッキーです。
 考え事をしているうちに、ララルス邸に到着。門の前で馬車を降りて、堂々と敷地内に入る。すると玄関の前に見知った顔が立ち並んでいて、彼等は私の姿を見つけるなり一糸乱れぬ動きで跪き、

「帰還を心待ちにしておりました、我が主」

 頭を垂れて口を揃えた。相変わらず耳が早いですね、カラスは。

「気が早いですよ。叙爵式までは三日はありますから、私はまだ正式な当主では無いのですよ」
「だが今この邸に戻ってきたって事は、何かするつもりなんだろう?」

 ニヤリと吊り上げられた口角で、アンドレカが問うて来た。

「ええ、まあ。もうすぐ私のモノとなるこの邸に、ゴミは必要無いので」

 ゴミ掃除という名の人材の一斉解雇と不要な物の一斉処分。それを前もって行っておこうかと思ったので、三日前から邸に帰って来たのです。
 後は、妹への事情の説明でしょうか。妹に会うのも八年ぶりですけど……果たしてどうなるやら。
 ああ、もうすぐです。もうすぐで、私は確かな力を得られる。
 だからもう少しだけお待ち下さい、姫様。いつか必ず、貴女を守り支えられるようになって、お傍に馳せ参じますから。

 その時はどうか、最後にもう一度だけ──……夢を、見させて下さい。