「……七日後にはイリオーデ・ドロシー・ランディグランジュ卿を迎えに上がりましょうか。ランディグランジュ侯爵を脅迫《せっとく》していただく為にも」
「はぁーい。そういえば、ランディグランジュは滅茶苦茶にしないんだねー」
「最初はそうしようと思っていたのですが、ララルスはともかくランディグランジュを掻き回すと後が大変ですので。ところで貴方はいつまで人の足を枕にしているつもりですか。早く退きなさい」

 ずっと人の足の上でゴロゴロとしていたシードレンの頭を無理やり退かして、私は彼に文句を言う。シードレンは「えーもー終わりー?」と露骨にしょげていた。
 そんなシードレンをマーナが「シードレンがお嬢様困らせるから〜」と煽り、機嫌を悪くしたシードレンがマーナに掴みかかる泥仕合が目の前で繰り広げられる。

 それは夜が更けるまで続き、そろそろ寝るので帰って下さい。と二人を叱りつけるまで終わる気配を見せなかった。
 それからと言うもの、あまりにもやる事が無くて暇を持て余す日々が続きました。暇そうなカラスに逐一姫様の様子を報告するように言いつけましたので、その報告だけが精神崩壊してしまいそうなぐらい退屈な日々の支えとなっていた事でしょう。

 とは言えど、吉報は一度たりとも齎されなかった。毎度聞こえてくるは『今日も目覚めなかった』と言った報告だけ。
 姫様のお傍にはシルフ様達やマクベスタ様にイリオーデ卿、シュヴァルツとナトラもいますからこれ以上の最悪の展開は訪れないでしょうが……それでも心配なものは心配です。
 きちんと掃除炊事洗濯整理整頓などは出来ているのでしょうか。そもそも料理を出来る人がいるのでしょうか、あの中に。

 そう不安になった私は、すぐさま料理が出来るカラスを皇宮に派遣しました。ララルス邸を監視していたカラスに、その役目はもういらないので皇宮に行くようにと指示しました。
 元よりララルス邸とランディグランジュ邸を監視させていたのは下手な外出を防ぐ為。
 ララルス侯爵家は現在家宅捜査でその家の人間全員が事情聴取の為に連行されているようでして、わざわざ九人近い人間が監視の為に付近に潜伏する必要が無くなったのです。何せ、外出を防ぐ相手が全員邸からいなくなったのですから。

 その結果ララルス邸の監視担当だった第二班は暇になり、念の為の監視要員として二人を残して、後の者達は私の元にやって来ては皇宮に派遣されるを繰り返していました。
 そしてやはりどこか虚無な気持ちのまま日は進み、六日後。私はついに王城からの呼び出しを受けた。予想より少し遅かったのですが、司法部は忙しい部署なので無理もない。四大侯爵家が関わる事件なのですから、何かと慎重になっているのやもしれません。

 正体を隠す為にともう一度黒いベールを被り、シャンパージュ伯爵と共に王城に向かうと、私達は真っ直ぐとある一室にまで案内されました。