どうやら私に同情してくれたようですね。
 その後更に、『侍女の娘は運良く職を見つけられた為、これまで八年間侯爵に見つからずに何とか生きてこられたが、最近になって侯爵が屑と有名な長男を後継者に指名したと聞き、このままではララルス侯爵家の名誉や存続が危ぶまれると。侯爵に見つかり手篭めにされるかも、という恐怖をぐっと呑み込んでララルス侯爵家を守る為に立ち上がった』といったお涙頂戴な筋書きが次々にシャンパージュ伯爵の口から語り紡がれる。

 随分と純粋な人が多いのか、司法部の方々はキラキラとした目で私の方を見てくる。まさかこんなお涙頂戴筋書きを真に受けるとは……何だか少し申し訳ないですね。

「……──これ以上ララルス侯爵家の暴挙と不正を野放しにしてはならないと……そう思ったんですよね。ララルス嬢?」

 長々とした演説を終え、シャンパージュ伯爵がくるりとこちらを向き、笑顔で確認してきました。それにこくりと頷きますと、司法部の方々の口から「何て勇敢な人なんだ」「ララルス侯爵家、やっぱりヤバいんだな……」「悪は滅ぶべし」なんて言葉が聞こえてきた。

 その後はもうトントン拍子に事が進みました。緻密な告発文書、そしてそれを裏付ける数多の証拠。これだけの物が揃っていては司法部もすぐさま動くというもの。
 その場でダルステン司法部部署長から家宅捜査等の指示が司法部の方々に下された。そこから先は以前のアルベルトの際とあまり変わらないようで、家宅捜査に参加する実働部隊を編成しに司法部の方が駆け出しました。

 そして私達は一度帰る事に。また後々改めて呼び出す事になりそうだとダルステン司法部部署長に言われ、私達は早々に王城を後にする事になったのです。
 私はシャンパージュ伯爵のご厚意で、シャンパー商会の運営する最高級の宿館《ホテル》が一室、それも特等客室《スイートルーム》なる部屋に暫く滞在する事になったのです。

 これがまた凄く……ララルス邸のただ華美なだけの不躾な装飾と違い、計算され尽くした配置。勿論装飾そのものの輝きや精巧さもさる事ながら、一切の不快感や違和感を感じさせないまさに完璧と言える室内。
 そして何より、埃一つ無い事が素晴らしい。窓も汚れなどどこにも見られず素晴らしい透明度を誇る。

 流石はシャンパー商会の最高級宿館(ホテル)……! まさかこれ程とは……っ!!
 侍女となり八年が経ちますが、やはりまだまだこの道は長く険しい。私ではこのような、思わず感嘆の熱い息が漏れ出てしまうような仕事はまだ出来ませんから。

 しかしいつかは出来るように──……。また、やってしまいました。私はもう、姫様の侍女ではないのに……寧ろこれからは侍女を使う側の立場に立つ事となりますのに、いつまで経っても侍女気分が抜けませんね。