「彼女の名前はマリエル・シュー・ララルス侯爵令嬢。ご存知の方もいるかとは思いますが、現当主モロコフ・シュー・ララルス侯爵の庶子であり……八年前に失踪したと話題になったご令嬢です」

 ああ、そう言えばあの屑はそんな名前をしていましたね。あまりにも興味が無くて忘れてましたわ。
 シャンパージュ伯爵が私の名を明かした所、司法部の方々は、やはり……と言いたげな沈黙を置いた。八年間失踪していた庶子でもなければ、こうして顔や声を隠して表舞台に出てくる事もありませんから。
 そもそも皇宮で侍女になってなかったでしょうからね。

「彼女とは縁あって出会い、私も度々話をうかがってこの告発に協力すると約束したのですよ。やはり同程度の歴史を持つ家門の貴族としては見過ごせない事も多くて……さてそれはともかく。彼女……ララルス嬢は失踪する前より、ララルス侯爵より度の越えた執着を受けていたようで──……」

 シャンパージュ伯爵がつらつらと語り出す。『女好きで色狂いの侯爵は妻が三度目の妊娠をしている間、前々より目をかけていたお気に入りの侍女についに手を出してしまい、その侍女が一人の子を産んだ』
『その事に夫人も最初こそ怒ったものの、次第に夫人自身も外部から気に入った男を連れ込むようになり、侯爵はそれ以前よりも大胆に侍女とその娘に構うようになった。その時には既に侯爵は不正に手を染めていて、侍女の娘は侯爵の暇潰しの相手をよくさせられた為にそれを知っていた』

『侍女の娘をよく思わない腹違いの兄姉は侍女の娘を玩具のように扱っては酷い嫌がらせを繰り返し、やがて侍女の娘が十六になった年に侍女が死に、侯爵は侍女の娘にまで手を出そうとしたので侍女の娘は侯爵家より逃げ出した』と、脚色無しのマリエル・シュー・ララルスの過去が語られ、ララルス侯爵家の悪評を聞いた事があるらしい司法部の方々は「あぁ……」と呆れ返ったようなため息を吐いた。