さて。あの忌まわしき屑に一撃を食らわせる事が叶いましたので次に向かうは王城、それも以前アルベルトの件で少し世話にもなりました司法部に向かうつもりです。
 そこで、思い切り告発してやる予定なのです。まぁ思い切りと言いつつ、やる事は告発文書と証拠を司法部に提出するだけなのですが。

 王城に向かう車内にて、私はシャンパージュ伯爵より黒いベールのついた髪飾りをいただきました。それを上手い具合に頭に着けると、何と頭部が完璧にベールに覆われるのです。これを用いて素性を隠し、思い切り告発してやろう……といった算段なのですよ。
 髪飾りを着けてベールを調整すると、確かに我が頭部はほとんどベールに覆われ、外からは見えなくなっている事でしょう。

 王城ともなると私の顔を知る者もそれなりにいますので……計画が上手く進むまで、ハイラが私であると周囲に知られる訳にはいかないのです。その為の覆面、その為のベールです。
 王城に到着すると、私は一言も発さずシャンパージュ伯爵の後ろをただ着いて行きました。ベールで顔を隠しているとは言え、勘のいい人は声で気づく可能性があります。私は変声技術は会得していないので、声を発する訳にもいかなかったのです。

 なので全てシャンパージュ伯爵にお任せする形となりました。本当に、シャンパージュ伯爵の力なくしてこの計画は成り立たないと言っても過言ではない程に、シャンパージュ伯爵の力をお借りする事になり……恥ずかしい限りです。
 どんな内容でも、シャンパージュ伯爵は『王女殿下の為ならば』と二つ返事で引き受けて下さって…………姫様が心強い味方を得る事が出来て良かったと心底思うと同時に、それだけ、何でも出来てしまうシャンパージュ伯爵家の忠誠を手に入れたからこその現状である、と小さい事を考えてしまう私は矮小な人間なのだと思い直す。

 やがて司法部の部署に到着しますと、そこにはダルステン司法部部署長を初めとした司法部の方が数名と、お忙しい筈のケイリオル卿がいらっしゃいました。
 そこで、シャンパージュ伯爵の方より改めて本日の訪問理由の詳細が語られる。

「朝早くからの訪問で恐縮ですが、事前の文の通り今日はとある家門の告発文書の提出に参りました」

 そう言って、彼は鞄の中から凄まじい量の文書と証拠を取り出し提出する。その内容を見て司法部の方々が目を見張る。
 何故ならその内容は全て、帝国初期よりこの国を支え続けた歴史ある家門ララルス侯爵家の不正その他諸々の告発だから。それも、告発の全てを裏付けるような証拠証言の数々……勝負が始まった時点で決着がついているかのようなものなのですから、驚くのも無理はない。