そして次に、『現当主が行う不正を知っていた為か、庶子でありながらも由緒正しきララルス侯爵家を守ろうと励み、結果爵位簒奪と言う手段を取らざるを得なかった女侯爵』
『前侯爵による腐敗が原因で、やはり失墜は免れなかったララルス侯爵家ではあるが……慈悲深き王女殿下の支えとその歴史があって何とか再建した』
『その王女殿下の優しさに心を打たれたランディグランジュ侯爵家とシャンパージュ伯爵家がララルス侯爵家の支援を始め、結果的に王女殿下の派閥がより強くなった』と言った結構無理やりなお涙頂戴筋書きをシャンパージュ伯爵が乗り気で用意して下さったからです。

 世間からすれば、この三家門の繋がりはあまりにも突然の事。それもララルス侯爵家とランディグランジュ侯爵家に関してはその繋がりというものがどちらも十年程前に家出ないし失踪した子供達……なんて、通常であれば信じて貰えないような繋がりです。

 そんな我々が可能な限り自然に互いを支え、そして違和感なく姫様の支持を表明する為にはどうするか──……と話し合った末に出した結論が、あの筋書きなのです。
 計画決行後のイリオーデ卿の役目と言うのは、ランディグランジュ侯爵家にシャンパージュ伯爵と共に乗り込み、ランディグランジュ侯爵を脅迫《せっとく》する事。

 爵位簒奪から十年近く経ち突然帰って来た弟が、よりにもよってシャンパージュ伯爵と共にいては、さしものランディグランジュ侯爵と言えども強くは出られないでしょうから。
 シャンパージュ伯爵が関わる告発によってランディグランジュ侯爵家とその親戚筋全家門の衰退か、計画に大人しく賛同し共犯者となる事で生き長らえるか。その二択をランディグランジュ侯爵に迫るつもりだと聞きました。

 そして私の方で行う計画自体にもやはりシャンパージュ伯爵が大きく関わってくる。そもそもこの簒奪計画はシャンパージュ伯爵の協力無しではどうしても、無血勝利とはいかなかったでしょうから……本当にシャンパージュ伯爵の協力を得られて良かったです。

 どんな突拍子の無い案でも『それいいね』『面白いと思う』『試す価値有りだな……』と真面目に話を聞いてはすぐさま実行したり視野に入れる辺り、流石はあのシャンパージュ伯爵家の現当主だな、と畏怖の念を覚えましたね。あまりにも行動力の塊過ぎて。
 ちなみにあの屑男の顔面を一発殴る流れは、私が自ら頼み込んで計画に組み込んでいただいたものです。本当は母の葬式の時だってあの屑の顔面を血塗れにしてやりたかったのですが……それは叶わなかったので。