何とか人目につかずあの場を離れて少し歩き、大通りの一角にある賑やかな食堂で一休みする事にした私は、頬杖をついて考えを巡らせていた。
 ──帝国騎士達の目を掻い潜る奴隷商、デイリー・ケビソン子爵……。
 ──それと、突然動かなくなった猫シルフ。どうなっているのかは分からないがずっと私の肩に乗り続けている。
 あんなに動き回ったのに一切落ちる気配が無かった。……というか、鞄と猫シルフの影響で体の重心が少しブレてやりづらかったわね……今度からはそういう不測の事態に備えた特訓もしようかしら。
 現在進行形で私の肩に乗り続けている猫は、それはもう凄い注目を集めている。何せ肩に乗る猫が微動だにしないのだ、誰だって目を疑うだろう。
 ペット同伴可能なこの食堂で一休みしているのも、猫シルフが未だによく分からない状態に陥っている事が大きな理由なのだ。

 シルフはこの様子だし、私は壁際の小さな席でジョーヌベリー(黄色みのある野いちごのような果物。オセロマイトの特産品らしい)の氷菓子を堪能していた。
 ほどよい酸味と口の中いっぱいに広がる甘みが氷菓子ならではのひんやりとした刺激と共にやって来ては、非常に満足感を与えてくれる。
 ん〜っ! ジョーヌベリーの氷菓子美味しい!
 これはあくまでもシルフを待っているだけであって、決して私がこれを楽しみたいだけとかそんな訳ではない。断じて違うぞ。
 待っている間暇だから暇つぶしに食べているだけなんだ。これが目当てだったとか、そんな事ない。
 私がジョーヌベリーの氷菓子を味わっていると、突然誰かが机の上に、コトッ……とグラスを置いて話しかけて来た。

「相席しても構わないかな」

 深緑の髪を三つ編みにして肩に流している、落ち着いた雰囲気の男性だった。暗めのローブを羽織っているからかその服装はよく見えないが、その所作からして恐らくは貴族の人だろう。
 貴族の人がどうしてこんな所に?

「構いませんよ」
「…………ありがとう。あぁ、それは君が飲みなさい」
「これは、ほんのお気持ち……と言う事ですか?」
「…………まぁ、それは僕の奢りだから、気にせずどうぞ」

 男が差し出してきたグラスにはオレンジ色の液体が並々注がれている。何の飲み物だろうかとじっと見つめていると、男が「それはジョーヌベリーの果実水だよ」と微笑みながら教えてくれた。
 確かにグラスの中からほんのりと甘い香りが漂ってくる。それじゃあいただきます、とそれを口に含む。
 氷菓子と同じかそれ以上にジョーヌベリーの甘みを感じられる素晴らしい飲み物だ、これは。……本当にいいなこれ。皇宮でも飲めないかなこれ。