私がかなり切実な表情をしていたからか、シャンパージュ伯爵は渋々この申し出を受け入れて下さりました。困った顔で、「貴女はこれよりララルス侯爵になるのだから……そう考えたら、まぁ。ギリギリ許容範囲だ」とシャンパージュ伯爵は笑った。

 そして話題は今日から実行する計画と、姫様の話になった。
 シャンパージュ邸に帰った伯爵夫人の代わりに、三日程前、なんとシャンパージュ伯爵直々に御礼の品を東宮まで届けに来て下さって。その際にシャンパージュ伯爵には姫様の事をお伝えした所、なんとシャンパージュ伯爵家からも多大な支援を頂ける事となったのです。

 しかし、大っぴらにそのような支援を受けてしまえば、外部に姫様の事を悟らせるだけになってしまう。そう考えた我々は、秘密裏にシャンパー商会より貴重な薬等を流して貰う事にしました。
 と、言っても。万能薬や聖水、人を眠りから覚ます薬など……シャンパー商会秘蔵の薬を沢山頂いただけですが。

 シャンパージュ伯爵も長い間一向に目を覚まさない伯爵夫人と共に生きていらしたので、この手の事に関してはかなり詳しいようで……次々と色々な薬に魔導具を用意して下さりました。

『残念ながら、全て妻には効かなくて……王女殿下に効くと良いのだが』

 シャンパージュ伯爵は薬や魔導具を用意して下さった時、そうどこか悲しげに仰ってました。
 姫様から掻い摘んで聞いた限り……伯爵夫人の昏睡の原因は精霊様でなければ治せないようなもの、との事でしたのでそれは仕方の無い事だったのでは。

 ……そんな喉まで出かかった言葉を私はぐっと飲み下し、とにかく姫様にも使ってみましょうと片っ端からあれこれ試しました。
 しかしどれも結果は振るわず、原因が何なのかと途方に暮れていた時。エンヴィー様とカイル様が神殿都市より枢機卿と呼ばれる程の御方を連れて来て下さいました。

 聞けばカイル様主導で神殿都市に転移し、エンヴィー様が枢機卿を発見してその足で誘拐──……お連れして来たのだとか。その枢機卿と呼ばれる仮面の方に訳を話し、何とか姫様の容態を診ていただいた所、

『是、原因、精神。身体的問題皆無』

 無機質な声で、そのような診断結果を返された。
 やはり身体的な問題は特に見られない為、光魔法でもこれはどうする事も出来ないのだという。突然誘拐され診断を強要され、枢機卿もかなり不機嫌な様子だったのですが、

『…………不可解。何故、精神干渉不可能』

 暫く姫様を診ているうちに、そう呟いていらっしゃった。
 精神干渉? と私が頭に疑問符を浮かべた頃には、枢機卿も神殿都市に帰ろうとしていて。それに気づいたエンヴィー様が『お前、この事誰にも話すなよ』と釘を刺し、カイル様が神殿都市に枢機卿を転移させた。

 その後行った話し合いの末、私達は『姫様の意識が回復しないのは姫様の精神に何かしらの問題が起きているから』と結論づけ、とにかく姫様自らお目覚めになるのを待つしかない、とその話し合いは幕を閉じた。
 シルフ様達曰く、精神面の問題となるともう手の付けようが無いと。姫様を信じて待つしかないのだと言われてしまったからである。