『ごめ、ん、なさ……い……ひめ……さ、ま……わた、し……むり、にでも……い、しょ……に…………』

 姫様が十年以上使っておられた寝台《ベッド》の上で。私は勢いを増す炎に囲まれて泣いていました。
 皇帝陛下の勅命を受け、今まで見た事も無いような笑顔で東宮から出て行かれた姫様の背を、私は無理にでも追いかけるべきでした。姫様を、一人にするのではなかった。

 姫様が国を裏切る筈が無い。そんな事、誰よりも何よりも姫様のお傍にいた私が一番よく分かってます。だからこそ、私だけは……姫様の味方でいられる私だけは、姫様のお傍を離れる訳にはいかなかったのに。
 私は、姫様を一人で逝かせてしまった。私の姫様、愛しい姫様……本当にごめんなさい。本当に申し訳ございません。

 ああ、だから。今から──私もそちらに向かいます。そして、姫様のお傍に離れてしまった事を、謝らせて下さい。姫様の望みを叶えられなかった事を、謝らせて下さい。姫様と交した約束を守れなかった事を、謝らせて下さい。

『ひ、め……さま……いつ、までも……わたっ……し、は……あな……た、を──……』

 愛してます。愛しい、私の姫様。どうか、どうか。もしも次があるならば……今度こそは、姫様をお守りし、望みを叶えてさしあげたい。
 そして、願わくば。私はいつまでも、姫様の侍女としてお傍に────。

 いつもここで悪夢は終わりを迎えました。痛い程伝わってくる悪夢の中の私の感情。これを夢に見るようになってからというもの、私は何があっても姫様をお守りせねばという気持ちに駆られるようになりました。

 毎日侍女の仕事をこなしては裏でシャンパージュ伯爵と連絡を交わし、カラスに様々な雑務を任せたりもして、爵位を簒奪する計画を練り上げてきました。
 そしてついにそれを実行する時が来たのです。

 この八年間、姫様の侍女としてお傍に仕えてこられて本当に幸せでした。爵位を奪えたのなら、恐らくもう私は姫様の侍女ではいられない事でしょう。
 とても辛い事ではありますが、これも姫様の為だと、私は我慢する事にしたのです。侍女なんて弱い立場ではなく、四大侯爵家の当主という強い立場となり貴女様をお守りする為に。
 …………ですから、一旦さようならです、姫様。