「アミィの死。それが、あの子の持つ加護属性《ギフト》と加護そのものの発動条件だ」
「っ! 姫さんの、死……」

 エンヴィーはその紅い両目を丸く見開いて愕然としていた。
 加護そのものの発動条件、と言ったけれど……加護を与えた時点から、常に加護によるカウンターは発生していた。その対象が、毒や病や呪いや他の権能による干渉。恐らく、外より降り掛かるアミィに害するもの全てが、ボクの加護による無効化の対象となるのだろう。

 だがそれは基本的に"形の無いもの"や"見えないもの"だけであり、剣で斬られたり魔法で攻撃されればアミィとて怪我をしてしまう。更には熱や風邪やら頭痛に腹痛など、外ではなく内で発症する病に関しては対象外、つまり加護による無効化が行われない。

 アミィに呪いや権能が効かないと聞いてから、ここ数年の事を思い出しつつボクが出した結論がこれだ。
 だから、加護そのものは常に発動している……がしかし。このボクが与えた加護がただそれだけで終わる訳が無い。加護属性《ギフト》の事もそうだが、ボクの(加護だけに限らず、精霊の)加護はかなり危ういものなのである。

 加護属性《ギフト》の封印と並行して、加護の中で一番不味い影響を遅らせようと、条件を満たすまでは加護が完全に発動する事はないようにしておいたのだ。
 あの子が加護属性《ギフト》やボクの加護を持つと周りに知られては、あの子の尊厳や命が危うい。最悪の結末を避ける為に、『アミィの死』なんて生きてるうちは一生達成不可能な条件にしたのだ。

「……それなら、まあ、安心っすね。姫さんの加護やら加護属性《ギフト》やらが周りに知られる心配は無いと」
「ただ、もし仮にだ。アミィが死んでしまった後加護がどうなるか、ボクにも分からないんだよ」
「何でそんな何もかも不明瞭なモン姫さんに与えたんすか……」
「仕方ないだろ加護なんて初めて与えたんだから…………」

 エンヴィーの言葉と視線が痛いくらい刺さる。

「てか今更っすけど、姫さんって精霊化してんですか?」
「それも加護属性《ギフト》の封印の時に極限まで遅らせた……けど、加護を与えてからもう六年経ってるからそれなりには精霊化も進んでるみたい」
「マジで無責任にも程がありますよ、アンタ……加護に加護属性《ギフト》に精霊化まで本人の意思とは無関係で……」

 まるでボクだけが悪いかのように語るエンヴィー。最も悪いのはアミィの命を脅かす人間達だ。ボクはボクに出来る事をやろうとしただけだし。
 精霊化と言うのはその名の通り、人間が徐々に精霊に近づいてゆく事を指す。基本的には精霊から何らかの加護を与えられた人間、ないし精霊に魅入られた人間に起こる現象である。