「なあ、エンヴィー。何でメイシアに魔眼を与えたんだ」
「何でってそりゃあ……姫さんの為っスけど……」

 ペラペラと紙を捲っては字を書いて判を押して横に避け、また紙を捲っては字を書いて判を押して横に避け。気の遠くなるような書類の山を視界の端に捉えながら、ボクは仕事に勤しんでいた。
 それをエンヴィーに手伝わせつつ、ボク達は片手間に世間話に花を咲かせていた。

「魔眼を人間に与えちゃいけないーなんて制約は無いですし、問題無いっしょ?」
「人間が魔眼を二つ同時に所持するなんて今までに無かった事……危険度外視でよくやろうと思えたな」
「まあそこはそれ。何となくお嬢さんならいける気がしたんですよねー、火の最上位精霊の勘ってヤツですよ」

 何ともまぁ、適当な事だ。それを受け入れるメイシアもかなり肝が据わってる。アミィの為に命を懸けられる人間が増えるのはとてもいい事だ。
 あの子は死にたくない割に自分の命を軽んじる節がある。そんなアミィの代わりに命を投げ出せる人間が増えたならば、きっとアミィの生存率は上がるからね。

「てか面白くないっすか、お嬢さんの眼。爆裂の魔眼を与えてみたらお嬢さんの魔力と延焼の魔眼にあてられて変色したんですよ? 元は橙色だったのに、今や延焼の魔眼とほぼ変わらない赤にまで近づいたんすよ!」

 興奮気味にエンヴィーが語るそれに、ボクは書類を仕分けながら「ウンオモシロイネー」と反応しておいた。
 どうやらエンヴィーはそれにご立腹のようで、じとーっと熱視線を送ってくる。エンヴィー(本体)にそれされると割と本当に熱いからやめて欲しいな、やめさせるか。

 エンヴィーに向け、仕事に集中しろ。と一喝し、ボクは仕事を再開する。これはただの仕事……通常業務だ。こうして定期的に一山片付けておかないと少し経つだけですぐ仕事が溜まってしまうのだ。
 ただでさえアミィと過ごしつつ裏では制約の破棄の為に色々準備したりで忙しいのに、それに加えてこの通常業務ときた。そりゃあもう忙しい。意識を分割して猫を操る事は可能だけど、もしかしたらボク自身が忙しくて余計な事を口走る可能性すらある。

 ものによっては不味い事になるかもしれないので、念の為に猫はおやすみモード、ボクはエンヴィーを呼び戻して仕事に専念している。それもこれも早くアミィの元に戻りたいからである。

「あれっ、エンヴィーや〜ん! 会いたかったでぇ」
「うげ…………ハノルメじゃねーか」
「感動の再会やさかい、ほれ、抱きついてもええんやで?」
「気色悪っ……近寄んなよ……」
「えーいけずぅ」

 勝手にボクの部屋に入って来て、謎の痴話喧嘩を繰り広げるハノルメ。「じゃあ俺から抱きつこーっと」とニヤニヤ笑いながらエンヴィーに近寄り、エンヴィーに足蹴にされている。
 どれだけ邪険にされても全く堪える様子が無く、むしろどんどん上機嫌になっていくハノルメを見て、ボクの頭の中にはある言葉が浮かび上がっていた。