(ああクソっ、何で俺は光の魔力を持ってねぇんだ……! こんだけ大量に魔力持ってても使い所が無いのばっかで……必要な状況が多い魔力に限って持ってないよなぁ俺! 光とか病とかがあれば、アミレスの事だって何とかしてやれたかもしれねぇのに!!)

 カイル・ディ・ハミルのチートオブチートたる所以。それはいくつもある魔力属性の八割近くを扱えるその規格外さだ。
 本来人間に与えられる魔力属性は一つ、稀に二つや三つの魔力属性を持つ人間がいるのだが……そう言う人間は本当に稀で、それだけで数百年に一人の逸材だとか言われて持て囃される事となる。

 そもそも、魔力属性というものはその人間の魔力炉と結びついており、その魔力炉で生産出来る魔力属性だけがその人間の扱える魔力……といった仕組みなのだ。稀にいる複数の属性を持つ者は、その複数の属性の魔力を生産出来る特殊な魔力炉を有しているという事。
 魔力炉で正常に魔力が生産されなくなると、それに合わせて生命力等も生産されなくなり、やがて人間は死に至る。だからこそ、他者に魔力属性を移植したりその人から魔力属性を奪ったりしては、人間は簡単に死んでしまうのだ。

 話は戻るが──……カイルはいくつもある魔力属性のうち八割近い魔力を扱える、人の領域を超えた超人なのだ。扱えないものは希少属性と一部の亜種属性(人間界より絶滅した属性や、氷の魔力等の特定の人間にのみ与えられた属性)を除いたほぼ全属性。
 それに加えて魔導具の大国に生まれ、剣の腕も身体能力にも強靭なメンタルにも恵まれたまさに生きるチート。歩く公害。神々の愛し子ミシェル・ローゼラより遥かに神々に愛されているような気もする男、それがカイル・ディ・ハミルなのだ。

 しかしカイルは光の魔力を持たない。光の魔力が希少属性に類するものだからだろう。というか、そこまで散々色んな魔力と才能を持っておいて光や病の魔力まで扱えたら、戦場であまりにも無敵過ぎる。
 この世界の均衡(ゲームバランス)が完璧に崩壊する事だろう。なのでこれは、クリエイターによる一応の配慮なのである。まぁ、それによって現在カイルは苦い思いをしているのだが。

「ハイラを連れて来たのじゃっ!!」
「姫様は無事ですか!?」

 バタバタバタ、と足音が聞こえたかと思えば、思い切り扉が開け放たれる。ナトラからアミレスが倒れたと聞き、ハイラも全速力で駆けつけたのである。
 その顔に焦りと心配を浮かべ、ハイラは長椅子《ソファ》で横たわるアミレスに駆け寄る。「今から簡単に触診しますので、席を外して貰えますか」とカイルとイリオーデを部屋から追い出して診察を始めた。

 アミレスの立場上、病に伏せた場合司祭や薬師を呼べない可能性の方が高かった。その為ハイラは独学で薬や病について学び、アミレスが病に伏せても問題ないように備えていたのだ。
 故にハイラは迷わず触診する。己の持つ知識を総動員し、アミレスの容態を確認する。

「……鼓動は普段と変わりない。呼吸も正常……目立った外傷も無し…」

 アミレスの服を少しはだけさせて、その体に触れてハイラは一つ一つ確かめてゆく。カイルとイリオーデに席を外させたのはこの為であった。アミレスは今、触診の為に下着だけの状態となっている。
 何が原因でアミレスが意識を失ったのかを知らないハイラは、ひとまず楽な格好にしなければ……とクラリスにアミレスの寝巻きが収納された場所を教え、それを一つ持ってくるよう頼んだ。
 こくりと頷いて、クラリスは部屋を出る。出た際に、

「王女殿下はどうなった!?」
「そこのカイル王子が言ってたように、多分今は眠ってるだけ……なんだろうけど、とりあえず私は着替え持ってくるよう頼まれたから、行ってくる」
「あ、ああ。そうか……」

 アミレスが心配で心配で仕方ないイリオーデに両肩を捕まれ、安否を問われるが……結果はカイルの見立てと変わらず。とにかく眠ってるだけと聞いて、イリオーデは安堵した。