……送るものは従属を示す為にオセロマイト王国の直系王族である必要があった。王太子には兄上がついているから、王位継承にも興味が無い第二王子のオレが行くのが丁度良かったのだ。
 オレは家族や国が大好きだし家族の為ならなんだって出来ると思い、単身フォーロイト帝国に行くと決心した。
 偶然にも、フォーロイト帝国の次期皇帝と謳われる皇太子フリードル・ヘル・フォーロイト殿下はオレと同い歳だった。更に剣術に秀でた人らしい。
 そういう縁もあって、オレは人身御供と言うよりかは親善交流のつもりでフォーロイト帝国に来たのだが…………そんな気はしていたが、誰も相手にしてくれないのだ。
 オレのような小国の王子相手にへりくだる必要もゴマをする必要も無い。だからこの国の騎士達が、オレの鍛錬に混ぜて貰えないかという自分勝手な申し出に難色を示すのも当然だった。
 フリードル殿下に関しても同様だ。彼は忙しい……暫く剣の鍛練は行わないと言われてしまった。
 結局、せっかく帝国に来たにも関わらずオレは毎日用意された部屋を抜け出しては人気の少ない所で一人で素振りをしていた。
 そんな時、突然声をかけられたのだ。フリードル殿下とそっくりの容姿を持つ少女……この国唯一の王女、アミレス殿下に。

 彼女は剣を振るオレを見て、あろう事か『一緒に剣の特訓をしませんか?』と言ってきた。帝国の唯一の王女が剣と魔法の鍛練……いや特訓をしている事に、オレは驚愕を隠しきれなかった。
 オレを特訓に誘ってきた時もそうだが、彼女は体を動かす際は薄手のシャツにズボンという非常に珍しい服装に、白銀の長髪を一つに結わえていて……その、真っ白なうなじがよく見えてしまう。
 そもそもあの服装も駄目だろう淑女があんな……と最初は戸惑っていたのだが、半年も経てばもう慣れていた。
 見た目も声も大変愛らしい少女なのにその言動は何故か王女らしくなく、いつもこちらの調子を崩されてしまう。……そんな彼女と過ごす特訓漬けの日々が楽しくて、いつの間にか敬語も敬称もオレ達の間からは無くなり、まるで古くからの友人のような距離感となった。
 だからこそこうして会えない日がとても珍しく、寂しく感じてしまう。

 もうすぐ会えなくなると考えると……余計に。
 元々オレは一年半程こちらに滞在して、オセロマイトに戻る予定だった。
 何せフォーロイト帝国にあまり歓迎されない事は予想出来ていたのでな。最初からそのつもりでいた。
 ……それなのにアミレスと出会い目まぐるしく日々が過ぎて、気づけばあっという間に一年も経ってしまった。あと半年もすれば、オレはオセロマイトに戻り兄上の補佐をしなければならなくなる。
 別にそれが嫌な訳では無いんだが、ただ、アミレスや師匠達との特訓がもう出来なくなるのだと思うと……少し、いやかなり悔やまれる。
 模擬試合だろうが何だろうがもっとアミレスと剣を交わしたい。もっとたくさんの事を師匠達から学びたい。
 なのに、その期間がたったの半年しかないなんて。