「分かったか人間? アイツを泣かせたらヤバいって事、分かったな?」

 悪魔が悪辣な笑みを纏う。これ以上言わなくても分かるよな、なんて副音声が聞こえそうな威圧感たっぷりの笑顔を向けられて、フリードルはたじろいだ。

(あいつは悪魔を使役している……このような事、父上が知ったら──)
「ま、目の上のタンコブになったアイツはまず殺されるだろうなァ。でもそれ、この世界の終わりを意味する事なんだぜ?」
(──心を読まれた?! 悪魔だからか……! 世界の終わりなんて、一体どういう……)

 とても親切な悪魔は困惑するフリードルに丁寧に説明してあげる事にした。その手にどこからとも無く取り出したトランプ──……一枚のキングを持って口を切る。

「アイツの望みを叶えてやりたい、アイツを死なせたくない、アイツの未来を守りたい。って思ってる奴がアイツの周りには大勢いる。オレサマ達は本来この世界とか他の種族とか心底どうでもいいんだが、今は手を取り合い仲良くしてる。それは他ならぬアイツがいるからだ。もし、万が一……アイツがいなくなったならば」

 悪魔の手にあるキングが黒い炎に巻かれて灰となる。その直後、悪魔は何枚ものトランプを空中に撒き散らし、

「オレサマ達にとっちゃあ……この世界はどうでもいいモンなんだよ。だから壊す。見るも無惨な地獄にして復元不可能なぐらい破壊し尽くす。オレサマ達からたった一人のお気に入りを奪ったこの世界を、人間共を、オレサマ達は許さねェ」

 それをも黒い炎で焼き尽くした。これは明確な脅し。フリードルへと送られた最低最悪の忠告だった。
 フリードルは、アミレスが悪魔をも従えていると言う事を……近い未来で己の邪魔となりかねない事をエリドルに報告しなければと思った。もしそれをしたならば、アミレスは確実にエリドルによって殺されるだろう。フリードルとしてはそれ自体は別に構わない事であった。

 しかしここでその悪魔の存在が厄介になる。何せこの悪魔はアミレスが死んだならばこの世界を滅ぼすと言っているのだから。
 フリードルは酷い二択を迫られた。己の覇道の障害物でしかないアミレスを殺せば世界が滅び、見逃せばあの障害物の所為で己は苦労するが世界は存続する。
 こんな二択を迫られる人間、そういないだろう。

「お前の存在を黙認すれば、世界を滅ぼしたりはしないんだな」

 フリードルは苦渋の決断を下した。だが悪魔はそれだけでは満足しない。