──アミレスが不審な男達に囲まれた同時刻、王城では……。

 よく晴れた青空の下、王城敷地内のいつもの場所でオレは自主練に勤しんでいた。
 今日はアミレスも師匠も先生も来ていないようで、完全にオレ一人だった。
 ……いつもなら、アミレスが剣を片手に小走りでやって来ては『マクベスタも自主練なの? 一本どう?』と模擬試合を申し込んで来たりするのだが…今日はどうやら、本当に来なさそうだ。

「ふッ、ふッ」

 二百五十六、二百五十七、二百五十八…………と頭の中で数字を数えながら、風を切って素振りをする。
 やがて三百を迎えた辺りで一度休憩する。師匠が基礎は大事だがやり過ぎはよくないと言っていた。何事も休憩や息抜きが大事だと。
 いつもは師匠が休憩を促してくれるのだが、今日は師匠がいないので自分の裁量で行わねばならない。……しかし、休憩の度に師匠がはしたない話ばかり振ってくるのは何なのだろうか。
 近くにはアミレスもいるのだから自重して欲しいと何度も進言しているのに……全く聞く耳を持たない。ああいう一面さえ無ければ本当に素晴らしい師匠なんだが……。

「はぁ……アミレスは今頃何をしているんだろうか」

 澄み渡った青空を見て、彼女を思い出した。彼女と出会ったのは一年程前……。
 オレの祖国オセロマイト王国は手工芸や芸術などがよく発展していて、いざ戦うとなればどこにも勝てないような弱い国だ。そんな我が国が生きていく為には大国の機嫌を窺う必要がある。
 オセロマイト王国はフォーロイト帝国と隣接しており、古くからフォーロイト帝国の友好国として知られている。……だが、その友好がいつまで続くか分からない。
 現皇帝エリドル・ヘル・フォーロイト様は無情の皇帝と呼ばれるような御方。かつて帝位争いの際に自身の家族や当時の皇帝さえも殺し、その座についたという恐ろしい人。
 たった一度、ハミルディーヒ王国との戦争に当時十五歳という若さで出陣した時には五千人近い敵をたった一人で皆殺しにしたのだという。夥しい量の死体を生み出し、文字通り戦場を凍てつかせた氷の怪物──。
 不必要とあらば身内でさえも切って捨てるあの皇帝が、オセロマイトのような力の無い小国をいつまでも庇護する筈が無い。
 しかしオセロマイトはフォーロイト帝国の庇護無しではすぐに滅んでしまう。そんなオセロマイトがフォーロイト帝国への従属の証として送ったのが、オレだ。