「──はぁ……俺に、あの御方の為に何か出来る事があるのか? だって俺だよ。頭を使う事が苦手で、本当に人を傷つける事にばかり秀でた俺が? 心優しいあの御方の為に何を出来るって言うんだ……?」

 待機室で長椅子《ソファ》に座り、頭を抱え込む。俺に生きる事を赦してくれたあの御方の為に何か恩返しをしたいと思う反面、果たして俺なんかに一体何が出来るのかとも思ってしまう。
 俺なんかがいた所で寧ろ完全に邪魔になってしまうぐらい、あの御方の周りには優秀な人達……人じゃない人もいたが、とても信じられないような人材が揃い踏みだった。

 あれ、俺……どう考えても要らないよね? あっ……駄目だ、自分で言っていて辛くなって来た。役に立ちたいと思う相手の役に立つ方法が全く思い浮かばないなんて。
 …………あの御方はこの国の王女殿下だ。確か、そう……皇帝陛下と皇太子殿下に疎まれていると噂の。その事もあって王女殿下は皇太子殿下の派閥の人間に狙われている、って前に男爵が言っていた気もする。もし、それが本当なら。

「俺が、あの御方に仇なす者を全て始末すれば……」

 きっとあの御方の役に立てるだろう。俺の心がどうなろうと最早知った事ではない。重要なのはエルに会う事とあの御方の役に立つ事だ。あ、でも。

「…………あの御方と、約束しちゃったからな。『もうこれ以上誰も殺さない』って……」

 ぶつぶつと呟きながら俺は思い悩む。そう、あの御方と約束したんだ。もうこれ以上は誰も殺さないと。つまりだ、俺は誰も殺せない。あの御方との約束を反故にする訳にはいかないから……困ったな。これではあの御方の政敵を始末出来ないじゃないか。

 ぐぬぬぬ、と悩んでいる時。突然部屋の扉が開かれて誰かが勢いよく入室、そして鍵をかけていた。その人を見て俺は驚愕する。何故、あの御方がここに? というか凄い騒ぎだな。
 ずっと考え事に耽っていた俺は気づかなかったが、どうやら少し前から部屋の前でかなりの騒ぎが起きていたらしい。そしてその中心にはあの御方がいたようだ。と、状況把握に務めていた所で、あの御方が突然俺の隣に腰を下ろした。

 何色かはわからないものの、ふわりと膨らむフリルのついた明るめのドレスや透き通るような白……透明? に近いふわふわの長髪。それらからほのかに香る甘く爽やかな香りがとても似合──じゃなくて! どうして、向かいにも長椅子《ソファ》があるのにどうして彼女は俺の隣に座ったんだ?! と俺は分かりやすく戸惑っていた。

「アルベルト」
「はっ、はい」

 しかしその途中で彼女が俺の名を呼んだので、俺は慌てて返事をした。そんな俺の顔を見ながら、彼女は重々しく口を開いた。