『…………知ってるわ。私はお前の弟が何処で何をしているか、ある程度ではあるけど分かるかもしれない』

 彼女は言った。

『……それはまだ教えられない。これを知れば、お前は死を免れない』

 どうしてか、とても申し訳なさそうな顔で。
 偶然にも彼女はエルがいるかもしれない場所をある程度と言うけれど、それでも知っていると言っていて……でもその場所を話せば俺は死を免れないのだと言う。
 別に俺は死んでもいい。死んでもいいから、最後にエルに一目だけでも会わせて欲しい……そんな思いから涙を零していると。

『お前、名前は?』
『…………アルベルト』

 彼女は突然、俺の名前を聞いてきた。そして、

『そう。アルベルトね……いい? 聞きなさい、アルベルト──私がお前の望みを叶えてみせるわ。アミレス・ヘル・フォーロイトの名にかけて、いつか必ず、お前を弟に会わせると誓おう』

 ──彼女は、俺相手にそんな誓いを立てた。学のない俺でも分かる。皇族がその名をかけた誓いをするというその意味は。
 ……初めてだった。八年間過ごした砦の皆は、確かにエルの事を捜してくれていたけれどどこか乗り気では無かった。寧ろ、このままずっと見つかる事無く砦で騎士として暮らそうなんて言ってきていた。

 帝都に来てからも、女性が良く手伝ってくれて……皆、最初は親身になってくれたけど、途中から『他の女に目移りしないで』とか『アタシより生きてるかも分からない弟の方が大事なの?』とか訳の分からない事を言い出して、しまいには薬を盛って来たり抱けだの寝てくれだの言ってきた。
 世間知らずの俺は少し優しくしたらいくらでも籠絡出来ると思ってた、なんて言われた事もあった。それでもエルを見つける為に頑張って、毎日毎日帝都中を歩き回っては沢山の人に声をかけて…………八年前に生き別れたと話すと皆が諦めろと言ってきた。

 誰も真剣に向き合ってくれなかった。最初は優しくても……きっと、エルは生きているという俺の言葉を信じてくれなかった。そうやって都会の荒波に揉まれ、疲弊していた所で……ようやく本当に協力してくれる心優しい人が現れたと思った。それなのに、結果はこれだ。
 男爵も結局は俺の顔や体や能力を利用したいだけだったらしい。最初の頃は騙されて首輪を嵌められても、担保なのかもしれない……なんて考えて、男爵はきっとエルを見つけてくれると信じていた俺だけど、半年が経った頃にはもう何も感じなくなった。

 誰も信じてくれない。誰も信じられない。誰も、俺を助けてくれない。
 そんなの当然だった。両親も弟も守れなかった弱くて愚かな俺にそこまでしてくれる人なんてどこにもいない。俺なんかを助けた所で、相手にとっては何の得にもならないからだ。
 俺には救いなんて永遠に来ない。俺はこのまま、エルを捜し続けるうちに男爵に無様に壊されて死ぬんだとずっと思ってた。