そんな時だった。ようやく目的の少女を殺そうと思った時、眩い光と共に目を奪われるような赤毛の少年が現れた。俺はその少年の使った見た事も聞いた事も無い魔法によって捕縛され、魔法も使えず身動きを取れなくなった。
 ああ、捕まるのか。これでもう俺は処刑されてしまう。結局エルを見つけられずに。ミシミシ、と心のどこかにヒビが入っていくような感覚だった。何だか覚えのあるこの感覚にもう身を任せようかと瞳を伏せていたら、あの少女が俺の事を近くのベンチまで運び、そこに座らせた。
 一体何を、と困惑している俺に向けて少女は言い放った。

『ねぇ、殺人鬼。お前の話を聞かせなさい。私はこの国の王女よ……隠し事は通用しないと思え』

 殺人鬼と言われた事に心が痛む。でもそれと同時に、俺は微かに期待してしまった。俺のような殺人鬼相手に話を聞かせろと言うこの国唯一の王女殿下……彼女がもし、俺の話を信じてくれたならば。

『…………もし、話したとして……俺の話を信じてくれるのか?』

 真正面から俺と向き合ってくれている彼女に、もしも愚痴をこぼせたら。同情して欲しいと思ってしまった。同情して、その上で馬鹿な男だと一蹴して欲しかった。

 生きる意味も希望も無く死んでしまいたかった。このまま終わりの見えない苦痛の中で生きるぐらいなら、いっその事死んでしまいたい。男爵はきっと、エルを捜すと口では言いつつも俺を利用する為に永遠に行動に移さない事だろう。だが、俺にはこの首輪をどうする事も出来ない。それに、男爵から自殺してはならないと命令されてしまった。

 エルに会いたくてずっと頑張って来たけど、もう、頑張る気力も残ってない。だから、もう俺は……。
 ボーッとしながらも、俺は耳に聞こえて来た問いには全て答えていた。何も考えず受け答えていた所で彼女に首輪の存在がバレてしまった……けど、もう俺は死ぬのだから関係ない。そう、思ったんだ。

『…………お前が罪を免れる事は不可能だわ。でも、せめて……少しでも罪が軽くなるように私からも訴えかけてみる。皮肉な事に……お前に嵌められたその首輪は、その訴えを現実のものと出来るだけの存在なのよ』

 この首輪を見て彼女は語った。罪が軽くなる? この首輪の所為で犯して来た俺の罪が、この首輪のお陰で軽くなってしまうと? なんて酷い話なのか。そう、俺が心に僅かな苛立ちを覚えていると。

『……弟さんと生き別れたのは九年前と言ったな、その時弟さんは何歳だった?』

 突然彼女がエルの話を聞いてきた。そう言えば、帝都に来てからエルの話を誰かにちゃんとした事は無かったな……と思い出し、俺はこれが最後になるかもと思いながらエルの事を話した。

『確か、九歳……だったと思う。名前、はエルハルト……一年ぐらい前に、帝都で弟を見たと、知り合いが教えてくれたんだ…………君は、知らないか?』

 有り得ない期待までして。あの日に俺を庇って大怪我をしたエルの顔が、いつも元気に『兄ちゃん!』と俺の後を着いてきていた可愛い弟の笑顔が、俺の頭を埋めつくしては些細な希望にさえも縋ろうとする。
 ずっとずっと、エルに会いたい一心で頑張って来た。たとえ報われなくとも、エルが無事で元気であった事だけ確認出来たら俺は満足だった。
 例え心が壊れそうになっても、実際に壊れてしまっても構わない。ただ一目だけでも、エルに会えるのなら俺は──。