(は……? 処罰の結果諜報部に行く事になった奴が、たまたま諜報部にいた生き別れの弟と再会するとか……おいおいおい、どうなってんだそれ、偶然にしちゃ出来すぎだろ?!)

 兄弟の感動の再会。それを目の当たりにしたダルステンは驚愕を顔に浮かべながら当惑した。

「……驚くべき事に、これらは全て偶然なのです。恐らくは誰かの意図によって捻じ曲げられた必然なのでしょう、しかし我々の視点では、どう足掻いてもこれは偶然でしかないのです」

 まるでダルステンの思考を読んだかのように、ケイリオルが小声で語る。しかし、その顔は未だに真っ直ぐ兄弟の熱い抱擁へと向けられている。

「っ、あんたは知ってたのか……この事」
「ええ、初めてアルベルトを見た時に見覚えのある顔だ、とは思っていたのですが……事情聴取の際に彼の話を聞き、確信しました。八年前にヌルが連れて来た記憶喪失の少年と彼の捜す弟が同一人物だと。なのでいつか機を見て再会させてやれればと思っていたのですが……まさかアルベルトが諜報部に行く事になるとは思わず」
「それが決まってからケイリオル様より儂の方に命令が下りたんだ。『今度そちらに新人が入る事になるので、その教育係にはサラを用意して下さい』ってな」
「じゃあ諜報部の、あんたも……」
「ケイリオル様が儂にわざわざあんな命令を下したからには、な。新人が気になって夜中にこっそり地下監獄まで見に行った所、見事予想通りだったと言う訳だ」

 あまりにも意味不明で信じられないような偶然に、ダルステンは息を飲んだ。限りなく奇跡に近い偶然。そんなものが目の前で起きたのだから当然だ。

(……やはり、どうにもこれをただの偶然と片付けるにはあまりにも……)

 誰もが奇跡的な偶然だと思う中、ケイリオルだけはこれを必然だと疑っていた。だがそれを確信に至らせる情報材料が足りない。そんな、拭い切れない疑念だけがケイリオルの中に残る。

(──まさか、ね……)

 ふとケイリオルの脳裏をよぎる一人の少女の顔。この事件に一番深く関わる彼女が意図した偶然なのでは、とケイリオルは考えたのだが……流石に無理のある事かと彼は結論づける。
 その判断が誤りである事など、この時のケイリオルには知る由もない事であった。

「エル……っ、これからは、ずっと……ずっと一緒にいような……!」

 アルベルトはエルハルトを力強く抱き締めて、大粒の涙と共にそう繰り返した。そんな号泣する男の肩で、エルハルトは「うん」と幸せそうに微笑んだ。
 こうしてアルベルトの望みは叶った。誰も気づかぬような水面下で仕組まれた偶然により、奇跡的な再会を果たしたのだ。