(ヌルとの約束の時間までまだ少しありますが、アレの事ですからもういるでしょう。頼んでおいた件もきちんと済ませておいてるといいですが)
(終身奉仕……死ぬまで帝国に全てを捧げて生きるんだよな……叶うなら、俺はあの御方に俺の全てを捧げたい。でもそんなの罪人には許されないか……)
(あー、僕もう帰っていいかな。まだ片付けないといけない仕事が山のようにあるんだが)

 息が詰まるような無言の空間。それはただ、それぞれが思い思いに考えに耽っていたが故に会話が発生していないだけにすぎなかった。
 しかしそれでも周囲の者達からすれば中々に異色の組み合わせ。それに無言で歩いているときた。

(なんであの人達一言も話さないんだろう)
(ケイリオル様と司法部の方って仲悪いのかな……)
(真ん中の人誰)
(あの二人に挟まれてるという事は、もしやめちゃくちゃ偉い人なのでは……?)

 すれ違いざまに城勤めの侍女や役人達が疑問符を頭に浮かべる。本当に何故か三人共話さない。全員が真顔に無言で並んで歩いているのだ。
 隷従の首輪に苦しめられていたときならばまだしも、ここ一週間近くカイルの活躍もあって隷従の首輪の効力で苦しまず、シルヴァスタ男爵の元より引き離された事もあってかなり精神面も回復したアルベルトは、今や全然人並みに話せるようになった。

 まぁ、意外と涙脆い一面のあるアルベルトはアミレスの前ではよく涙を流して言葉が詰まる事もままあったが……というか、つい先程までそうだったのだが。
 今は全然話せる。話せるがその必要が無いのでアルベルトは話さなかった。ケイリオルとダルステンが話さないからと言う理由もあるが、それ以外にももう一つ、アルベルトには話したがらない理由があった。

 自分の言葉を相手が信じてくれないかもしれない。相手の言葉が嘘なのかもしれない。シルヴァスタ男爵に騙され虐げられた恐怖《トラウマ》から、アルベルトは人と話す事を無意識に避けていた。
 何故アミレスだけは初対面でも信じて話そうと思えたのか、彼自身にも今はまだ、分かっていない事なのである。