「嵐のような御方だったな……」

 専属侍女に説教をされながら皇宮まで帰って行った、現帝国唯一の王女の背中を見送りながらダルステンは呟いた。
 騎士達に持ち場に戻るよう伝えていたケイリオルは、ダルステンのその呟きに楽しげに反応する。

「間違いなく、今後の帝国の台風の目となる御方ですよ」
「へぇ、ケイリオル殿がそう言うならそうなんだろうな。で、何で僕はここに呼ばれたのかね?」

 ダルステンはケイリオルに質問を投げかけた。そう、ただでさえ裁判の後処理で忙しい彼がこの場に現れた理由、それはケイリオルに呼ばれたからだったのだ。

「アルベルトの事ですよ。彼を例の場所へと一度案内する事になっているので、司法部部署長として付き添っていただければなと」

 ケイリオルはダルステンへと返事をしながら扉を開け、部屋に足を踏み入れる。その時ダルステンは、一瞬「うげぇ」とカエルが潰れるような声を漏らしたものの、渋々それに付き合う事にした。まぁ、最初からダルステンに拒否権など無いのだが。

「それではアルベルト、貴方の終身奉仕の場所へと向かいましょうか」

 まだ赤く泣き跡が全然残る顔のアルベルトに、ケイリオルは何の躊躇いもなく宣言する。しかしアルベルトは文句一つ言わずにそれに従った。
 そしてケイリオルとダルステンに挟まれ、アルベルトは終身奉仕の場所──諜報部の部署へと向かった。