「七人も殺させてしまってごめんなさい、これまで一年間貴方を救えなくてごめんなさい、黒幕を今まで捕まえられなくてごめんなさい、貴方の心の叫びに気づけなくてごめんなさい、もっと早く止められなくてごめんなさい」

 何度も何度もごめんなさいと繰り返す。これまで何もせず何も出来なかった無力な自分が酷く恥ずかしい。だからせめて、これから先少しでもアルベルトの人生が明るいものとなるように、その手助けをしたい。

「……──それと、お疲れ様。よく頑張ったね。もう大丈夫だから……貴方を苦しめる物も、人も、もうどこにも無い。貴方は何だって出来るの。貴方は何だってしていいの。貴方はもう自由よ。きっと、望みだってすぐに叶うわ」

 アルベルトの手を優しく握り、私は微笑む。今度は作り笑いなんかじゃない、本心からの笑顔。

「…………俺、もう……苦しまなくて、いい……んだ……っ! あり、がとう……っ、ございま、す……! 本当、に……俺、貴女……に、どう……報いれ、ば…………っ!!」

 アルベルトの瞳から大粒の涙がぶわっと溢れ出す。ポケットから慌ててハンカチーフを取り出して、それで涙を拭い、「そんな事気にしなくていいのよ」と伝える。しかし彼はフルフルと顔を小さく左右に振り、その瞳から溢れる涙は止まる兆しが見えない。
 だがこれでいいのだ。きっと彼はこれまでこんな風に弱音を吐く事も涙を流す事も出来ずにいたのだろう。だから今だけは思う存分泣かせてあげたい。
 好きなだけ泣いてね。自分の気持ちを沢山吐き出してね。大丈夫、全部私が受け止めるから。
 アミレスとよく似た貴方……どうか貴方の未来が、ゲームのような悲しい結末ではなく幸せなものである事を、陰ながら祈ってるから。
 アルベルトが涙を流し終えるまでの間、私はずっと彼の傍にいた。ひとしきり泣いて彼が落ち着いてから、私は大人しく退散した。

「またどこかで会いましょう、アルベルト」

 去り際に、そんな言葉を残して。諜報部に入ったらアルベルトはそれはもう第一線級の超実力者として色んな仕事に引っ張りだこになる事だろう。
 だからまぁ、またどこかで会える可能性なんてあまり無いのだが──……同じ敷地内にいるのだ。もしかしたら偶然バッタリ、何て事もあるやもしれない。
 だから私は、そうなったらいいなぁと思いながら、またと別れを告げた。次に会う時までにはきっとサラ──エルハルトとも再会出来ているだろうし、数年ぶりの兄弟の再会がどんなものだったか教えて貰おう。
 なんて事を考えながら皇宮までの帰路についていたからだろうか、私は横でずっと説教していたハイラの言葉をほとんど聞いていなかったのだ。

「姫様っ!」
「ご、ごめんってハイラ。次からはちゃんと聞くから、ね?」

 そりゃあ勿論ハイラも怒るよね。ぷんぷんと怒り心頭のハイラから追い説教をされながら、私は東宮に戻った。そして、

「無事勝訴!」

 使い方を完全に間違えているが、気分的にはこんな感じだったので、私はピースサインを作って皆に報告した。カイルと勢いよくハイタッチを決めた所、周りにいた皆もまたハイタッチをやりたそうにこちらを見ていたので、一人ずつ順番にハイタッチをしてゆく。
 伯爵夫人とクラリスにも、これでもう安全だと事件の完全な終息を伝えて、皇宮に避難していた人達は数日後には慣れ親しんだ家に帰れるようになった。
 まさに一件落着。こうして、帝都を騒がせた赤髪連続殺人事件は幕を閉じたのであった。