「はぁ……お忙しい兄様のお支えになるべく、私《わたくし》なりに考え行動した結果ですわ」

 大嫌いな筈の妹の事をどうしても把握したくて仕方が無いお兄ちゃんの為に、私は健気な妹を演じてあげた。
 我ながら何という演技力。心にも無い事を言ったからすっごくお腹が痛くなって来たけど。ため息、聞かれてないといいな。

「心にも無い事を口にするな、虫唾が走る」
「……心にも無い事を口にさせたのは兄様ですけどね。果たして、兄様は私が何と答えれば納得するのでしょうか? しないでしょう? それが分かっていて、何故私が全てを話すとお思いで?」

 フリードルが冷たく蔑んで来るので、私も負けじと笑う事をやめて相手を睨む。あまりにもこの男が面倒で、頬がピキピキと怒りに震えた。
 私がどう答えようともどうせこの男は納得しない。ならば最初から何も語らないに限る。情報とは時に何よりも重大な財産となる。隠せるものは隠すに越した事は無い。

「どうしても私の口から情報を出させたいのであれば、皇太子殿下としての権力を振りかざせばよろしいのでは? まぁ……そのような愚鈍な振る舞いを崇高な兄様が許容出来るかは、全くもって存じ上げませんが」

 フリードルの動きが止まった。混乱でもしているのか? 無表情で、されど仇敵を見るかのような目でこちらを睨んで来る。
 このまま逃げちゃっていいか。フリードルと長く関わってもいい事無いしね。
 そう決めた私は、ドレスをふわりと摘んで優雅に一礼し、最後にもう一度笑顔を貼り付けて顔を上げた。

「では。私《わたくし》はこれにて失礼しますわ。ごめんあそばせ、大っ嫌いなお兄様♡」

 とっても可愛く憎悪《あいじょう》たっぷりに言い放った私は、目を丸くするハイラの手を引いて、「行くわよハイラ」とフリードルには目もくれず歩き出す。
 一目散に歩いてフリードルから距離を取る。その時、私の口元は込み上げる嬉しさから緩く弧を描いていた。
 言った、ついに面と向かって言えたわよ私! フリードルに嫌いって言えた! 心の奥底がとても締め付けられるように痛むけれど、でも言えた。少しずつだけど私達だって変われているのよ!