「彼は最初からとても挙動不審で、犯行の邪魔をしているにも関わらず頑なに私《わたくし》には手を出さず被害者の女性を狙い続けていました。普通ならば犯行現場を目撃されたらその時点で逃走するか、目撃者諸共殺して逃走するでしょう。しかし、彼はそれをしなかった。彼はマルコ・シルヴァスタより指定された人間を殺すよう命令されていた為、命令に無い私《わたくし》に危害を加える事を拒み、逃げ出すべき状況でも逃げ出せずにいたのです」

 一度深呼吸をして、私は更に続ける。

「彼は交戦中に苦しそうに語っておりました。無闇矢鱈と人を殺したくない、誰も殺したくなかった、殺さないといけない──……と。彼は隷従の首輪の支配により殺人を強要されていた、隷従の首輪の被害者です。確かに人々を殺害した加害者でもありますが、同時に彼はその尊厳も精神も踏み躙られたれっきとした被害者だと、私《わたくし》は証言します」

 こうして私がひとしきり語り終えると、一人の司法部の方がスっと挙手をして、

「証人に確認したい事があります。先日、マルコ・シルヴァスタ男爵の逮捕のあった日の午後に帝都中に配られた新聞……あれについて何か知っている事は?」

 例の号外の事を聞いて来た。流石は司法部だ、あれにも私が関与していると気づいているとは。

「あれは私《わたくし》からシャンパー商会へと依頼した号外ですわ。私《わたくし》が実行犯アルベルトと交戦した日、彼は結局誰も殺していなかったので…………このままではマルコ・シルヴァスタに酷い暴力を振るわれると聞き、マルコ・シルヴァスタを油断させる目的も兼ねて急きょ作成させたものです」

 これは別に隠し通す必要のない事。どうせあの号外が偽の情報というのは城勤めの人達も知る事なのだから。そう思い正直に話した所、これにまたもや周囲はザワついた。

「静粛に! 証人、それは本当か」
「はい。決して嘘偽りではございません」
「……──成程。証人はもう下がるように」

 裁判長が困ったように眉間を寄せて確認してくる。私は最初の宣言通り嘘偽り無く発言した、何も嘘はついていない。そもそも話していない内容は沢山あるけどね。
 そうやってほんの一分程裁判長と目を合わせ続けていると、あちらが先に折れてくれたようで、『偽の新聞を作らせ帝都中に配った』事にはそれ以上の言及は無くすぐに下がるよう言われた。