そう言う細かい事情を知らず、最初から裁判でアルベルトの為に勝負しようじゃあないかと私は考えていたのだが……もし皇帝が帝都にいたならば、この裁判は開かれず、恐らくアルベルトはシルヴァスタ男爵諸共皇帝によって殺されてしまっていた事だろう。
 いやぁ、本当にあの無情の皇帝が今ここにいなくてよかった! 代わりに氷結の貴公子とやらがいるけども!

「では、証人喚問に移る。証人は前へ──……」

 こうしてどんどん裁判は進んでゆく。今は待機していたシルヴァスタ男爵の関係者達が次々に証言をして行っている。
 それは主にシルヴァスタ男爵の屋敷に勤めていた者達で、大半が高給に目がくらんで〜とか脅されていて仕方なく〜とか話している。

「……本当に馬鹿みたい。罪を犯す人も犯罪の手伝いをする人も」
「しかしそうする事でしか生きられぬ者もいるのです。仕方のない事、とは言いませんが……」

 証人達の証言をシルヴァスタ男爵は何一つ否定しなかった。それを見て私はボソリと呟いた。すると、それにハイラが反応する。

「そういうのを無くすのが私達王侯貴族の役目だと思うんだけどなぁ……これって綺麗事?」
「いいえ、素晴らしき理想かと。そう考える事すら出来ず、悪事に手を染める愚か者が多いこの世界にて、姫様のような考え方はとても貴重なものです」
「この理想を理想のままで終わらせるかどうかは私次第なのよね……私にはこれを現実にする力なんて無いけど」
「ありますよ。姫様には、この世界を変えるだけのお力があります」

 どこか確信めいた口調のハイラを見上げ、私は首を傾げる。

「何でそう思うの?」

 すると、ハイラはとても柔らかく美しい微笑みを作った。

「姫様だからですよ。私は姫様のお陰で変われました。大嫌いだった自分が少しは好きになれました。今一度、夢を見ようと思えました。貴女様と出会ったから私は変わる事が出来たのです。そしてそれは私だけではありません。多くの人、多くの未来が姫様のお陰で良き方向へと変わった事でしょう。ですから、姫様には世界を変えるだけのお力があると申し上げたのです」

 ハイラのその言葉がスっと胸の奥まで入り込んでくる。まるで私自身が褒められているかのような錯覚に陥り、何だかとても胸が温かくなった。