「──罪人マルコ・シルヴァスタよ、前へ」

 裁判長は司法部部署長たるダルステンさんのようだ。彼の言葉に従い、騎士二人に睨まれながらシルヴァスタ男爵がのそのそと前に出る。
 典型的な悪徳貴族……って感じの見た目の男だ。少し丸々としたいやらしい目付きの顔だが、数日間一時的に拘留されていたからか髪はボサボサで髭も沢山生えている。ふくよかな腹部から見て相当贅沢をしていたのだろう。だがその全身からは覇気を感じない。
 ……黒幕が大人しく全ての罪を認めていると言う話は本当なのかもしれない。なんて言うか、あの男には今、自由意志のようなものが無いように見受けられる。

「マルコ・シルヴァスタ。汝は全ての罪を認め、厳正なる罰を求めるか」
「……はい。もと、めます」

 裁判長の言葉にたどたどしく答えるシルヴァスタ男爵。やはり様子がおかしい。明らかに正常ではないと思うのだが……こんなにも緊張する場だもの、しょうがないか。

「ではこれより、汝の罪状を全て白日のもとに晒す」

 裁判長がそう告げると、洗練された動きで一人の裁判官──司法部の方が立ち上がり、手元の資料をスラスラと読み上げ始めた。その内容はこれまでシルヴァスタ男爵の犯して来た罪の数々。聞いてて呆れてしまいそうになる程の罪の多さであった。
 ちなみにこの国における裁判というものは弁護人や検事が戦うようなものではなく、罪を犯したと罪人に正式に認めさせる為に証人喚問を行い、罪人が罪を認めたならば裁判長が処罰を下す……みたいな簡単な仕組みなのだ。

 だからそもそも裁判を起こす時は決まって有罪確定の時のみ。冤罪であったり証拠不十分の事件の際は開廷されず、裏で司法部と諜報部がいい感じに処理しているとか。
 逆に、正式に罪を認めさせて処罰を受けさせる程の事でもない……というか、もうとことん悪さをしてしまいもう極刑だろコイツ。みたいな事件の犯人に関しては裁判とかガン無視で皇帝権限により即処刑となる。ゲームで皇帝に騙され殺されたアミレスがいい例だ。

 皇帝なんて役職に就くあの男は、この国で最も何の躊躇いもなく人を殺せる人間なのである。何せあの男だけは帝国法に縛られないから…………。
 例に漏れずシルヴァスタ男爵も即処刑となってもおかしくないぐらいの罪を犯しているのだが……現在皇帝が帝都にいない事、そしてアルベルトをどうするかと言う問題が発生した事、それら二つが重なりこうして裁判に至った。