ずっと私が下手に出ている必要なんて無い。私は王女だ、どれだけ皇帝に嫌われていようとれっきとしたこの国の皇族だ。なればこそ、これぐらい傲慢に振舞って当然だろう!

「どうしてもと仰るのであれば、袖の下もお送りしましょう。とっておきのものを用意しておりますので」

 袖の下と聞いて、ダルステンさんがピクリと反応する。司法部部署長たる人だもの、当然賄賂なんてものは嫌うに決まっている。
 この袖の下はブラフだ。先程語った理由だけで納得させる為の、予防線。もしかしたら『まだ足りない』とか言って逃げられる可能性もある。だからこそ、念の為にこうして逃げ道を潰そうと袖の下を送る、なんて事を言ったのだ。
 まぁしかし、袖の下は本当に念の為の予防線でしかない。そもそも、皇族の言葉に真っ向から反論するような人はそうそういない。例え相手が私であっても、だ。だから彼等はあの理由に納得せざるを得ない。
 何せこれに反論すると言う事は皇族の決定にケチをつけるようなもの──下手したら侮辱罪や反逆罪に該当するやもしれないからだ。

「ふ、ふふ…………はははっ! そう来ましたか、いやぁ一本取られた気分ですねぇ。そう言われてしまっては我々も納得せざるを得ません。分かりました、王女殿下のご希望通りの処罰を彼に下しましょう。ダルステン部署長もそれで宜しいですね?」
「……あぁ、そのように処理しようか」

 突然ケイリオルさんが楽しげに笑い始めたかと思えば、ダルステンさんも口元に薄らと笑みを浮かべて立ち上がった。何だかよく分からないが、二人共とても楽しそうである。
 まぁでも、どうやらこの勝負は私の勝ちのようだ。無事にアルベルトの死刑免除と諜報部への所属を承諾して貰えたのだから、大勝利と言えよう。
 ならば私はもう帰ろう。あまり長居してしまっては忙しい彼等の時間を無駄にする事になってしまうからね。

「では、私《わたくし》はこの辺りで。この度は私《わたくし》の身勝手な望みが為にお時間を取らせてしまい、誠に申し訳ございませんでした。そして心より感謝致しますわ」

 立ち上がってはドレスを摘み一礼する。部屋を出ようかと言う時にケイリオルさんがこちらまで駆け寄って来て、

「東宮までお送り致します、王女殿下」

 と提案してくれたのだが……忙しい貴方にそんな事させられないと。「私《わたくし》ももうすぐで十三歳ですから、一人でも大丈夫ですわ」とやんわりお断りし、一人で東宮に凱旋した。
 そして無事交渉成功と話すと、シルフやハイラが皆して褒めてくれたので私としてもとても満足の行く結果となったのだ。
 ……──そして現在に至る。だからもう処罰の方は心配していないのだけれど、実は私にはまだやる事がある。
 隷従の首輪の被害者でもある実行犯、アルベルトと隷従の首輪所持者にして黒幕、シルヴァスタ男爵……その両名の秘匿裁判に、私は重要参考人として出頭する事になったのだ。