だがしかし、実の所ハイラもかなり忙しい人なのだ。ハイラが毎年必要無いと上に言い放ってるとかで、東宮には全然新しい侍女が来ない。
 皇宮の一つと言う訳でそれなりにだだっ広い東宮を、何とこれまでハイラ一人で管理して来たのだ。有り得ない事に。
 たまにハイラの知り合いって言うお手伝いさんが何人か現れてめちゃくちゃ掃除してたりするのは見かけるし、最近ではシュヴァルツとナトラが掃除にハマってて少し人手が増えたみたいだが、それでも明らかに異常な人員不足である。

 フリードルのいる西宮、皇帝のいる北宮はどちらも五十人前後の侍女や召使がいるにも関わらず、我が東宮には正規の侍女はハイラ一人、お手伝いが四〜五人とどう考えても少ない。
 だが私以上に東宮に精通し、こと侍女業の専門家のようなもののハイラが『問題ありません』『信頼出来ぬ者などこの東宮には不要です』と頑なだからど素人の私はあまり強く言えないのだ。

 だがもし、ハイラの身に何か起きそうであればその時はもう王女権限で侍女を雇おう。ハイラはきっと、自分の領分を侵されるのを嫌がるだろうけど……これも彼女の為なのだ。
 まぁ、そもそも野蛮王女の元に働きに来てくれる人がいるならばの話だけどね。

「話が逸れてしまいましたね。貴方はいつまで混乱しているつもりなんですか、ダルステン部署長?」
「い、いやだって仕方ないだろう……あまりにも予想外過ぎてだな」
「いいから早く。王女殿下をいつまでお待たせするつもりなのですか」

 ケイリオルさんに促されたからか、ダルステンさんが慌てたようにごほん、と咳払いをして。

「……王女殿下の意見は分かった。恥ずかしながら、何も言い返せないな。無礼を承知で言うが、最初は権力を盾に法を無視しろと言われると思ってたんだ。だが実際は異様なまでに法について調べて来ていて……こっちが余計な事言う隙も無いぐらい捲し立てられては、頷かざるを得ないってモンですわ」

 ダルステンさんの表情が少し和らぐ。それはつまり……。

「アルベルトは、死刑にはならないんですよね……?」
「あぁ。ていうか元より我々もその結論には至ってたんですが。王女殿下はどうやら、法に詳しいからこそ深読みしてしまい直談判に出たみたいだ」

 ホッと胸を撫で下ろしていた所で私の体はピタリと止まった。