「確かにアルベルトは闇の魔力を用いた殺人を既に七度行っており、それは【帝国法第六十一条・闇の魔力を用いた犯罪防止法】及び【帝国法第二十三条・殺人法】に定められる処罰が適用される事は分かっております。ここで彼に処罰を与えなければ遺族が浮かばれないと言う事も分かっております。しかし、どれだけ非情であろうとも法は正しくあらねばならない。彼が犯して来た様々な罪──それによる処罰を軽くしなければならない最悪の免罪符がある以上、私《わたくし》は彼の減刑措置を求めます」

 私は何も間違った事は言っていない。それぐらいの気概で私は訴えかける。死刑でさえなければいい、アルベルトに少しでも弟に会える可能性を──時間を与えたいのだ。
 ダルステンさんとケイリオルさんの反応を待つ。どちらかが口を開くその瞬間まで、私はじっとダルステンさんを見つめていた。

「…………王女殿下、お伺いしたい事があります。まさかとは思いますが、貴女は帝国法を全て覚えていらっしゃるのですか?」

 すると突然、ケイリオルさんがおずおずと聞いて来た。何を言ってるんだろうか、この人は。

「はい。皇族ならば帝国法全三百三十一条全項覚えていて当然と、ハイ……専属侍女に言われたので。皇帝陛下も皇太子殿下も当然、全て暗記していると彼女が言うので私《わたくし》も八歳ぐらいの頃に全て覚えましたが……」

 ケイリオルさんの方を見上げ、そういうものなんでしょ? とばかりに首を傾げる。
 昔、歴代皇族全員のフルネームを覚えさせられた後、私は帝国法全てを覚えさせられた。気の遠くなるような作業ではあったが、その時ハイラが笑顔で、

『当然、皇帝陛下も皇太子殿下も全てそらで暗唱出来ると思いますよ。何せ、御二方とも帝国を担う御方ですから』

 と煽って来たものだから(※被害妄想)、私もムキになって全条全項覚えてやった。フリードルに出来て私に出来ぬ筈が無い!!
 これもまた、私が記憶力には自信があると自負している理由の一つなのである。

「……成程、侍女の方が。思い返せば、貴女の教育は全て侍女の方が担っていたそうですね。やはり彼女はとても優秀なのですね……機会があれば助手にでもなって欲しいぐらいですよ」
「えっ」
「あら、私《わたくし》の侍女を引き抜こうとしていらっしゃいます? でもごめんなさいまし、彼女は私《わたくし》の元に半永久的に就職すると以前より申し出てくれているので譲れませんわ」
「えっ」
「それは残念です、振られてしまいましたか。彼女のような優秀な女《ひと》が補佐に来てくだされば、私の仕事も多少は楽になると割と本気で思っておりましたので」

 ケイリオルさんと私がにこやかに会話をする傍で、ダルステンさんは私達を交互に見るように顔を動かし、その度に困惑の声を漏らしている。
 ハイラの助けが必要なくらいブラックな職場で働いてるのか、ケイリオルさん…………でもそうか、皇帝の側近かつ各部統括責任者なんて役職なんだもの、忙しくない訳がない。それなのに時間を取らせてしまって本当に申し訳なくなってきた。