「そうだ。法とは我々人間の社会を守る為の規律であり抑止力、つまり王女殿下の言う通りのものだ。ならば何故、貴女はそれを理解していながら、先程自分で言った与えられるべき当然の罰則を変えろと我々に直談判するのか……それを教えて貰いたい」

 来た、この問! 絶対来ると思ってたから事前にある程度何を話すかは考えておいたのだ。気分はさながら面接である。

「結論から言いますと、彼が隷従の首輪の被害者だからですわ。【帝国法第三百二十六条五項・隷従の首輪の被害者は市民尊重法及び奴隷禁止法の適用により、社会復帰の為の継続的な精神的又は環境的援助を享受可能。】【第三百二十六条六項・隷従の首輪の効果にて本人の意思に反して罪を犯していたと認められた場合に限り、特例で減刑措置をとる。】──以上の法を踏まえまして、彼は減刑されて当然かと私《わたくし》は考えました」

 つらつらと帝国法第三百二十六条について私は語る。これは十数年前に皇帝が新しく作った法で、その名も【帝国法第三百二十六条・特定魔導具所持禁止法】と言う。主に隷従の首輪の事ばかりが定められた全九項の法で、その他にも人類の負の遺産たる魔導具に関する事が定められている。
 この法がきちんと適用されるならばアルベルトは減刑措置をとって貰える筈……なのだが、いかんせんアルベルトは人を殺してしまった。それも闇の魔力も使って。
 他にも誘拐や監禁等……隷従の首輪の所為だったとは言え、色々とやりすぎだった。その為下手したら死刑にもなりかねない。その辺りの采配については私は全くの素人なので、第三百二十六条があるとは言え安心出来なかった。故に、こうして直談判に来たのだ。
 アルベルトにも約束したから。死なせないと、必ずや弟に会わせてみせると。だから私は何としてでもアルベルトの減刑措置をもぎ取らねばならない。