「きっとお二方の事ですからこの件に私《わたくし》が関わっている事も既にご存知でしょう。その上で私《わたくし》から直談判させていただきたいのです──……実行犯アルベルトに下す罰を、死刑以外にしてください」

 途端に険しい顔になるダルステンさん。当然だ、何も知らない王女が裁判前に突然意味不明な要求をして来たのだ。誰だって眉を顰める。

「……王女殿下、何の為に法があるかご存知ですか?」

 威圧感のある声でダルステンさんが問うてくる。質問の意図が分からないが、とにかく答えるべきだろうか。

「私《わたくし》の所感で良ければ。それは統制と抑止力だと思いますわ」
「……ほう? その心は?」

 私の回答に、ダルステンさんは前のめりでもう一歩踏み込んで来た。その鋭い瞳から目を逸らす事無く、私は続ける。

「まずは統制。規律、決まり事、ルール、約束、法……その名称は様々ですが、我々人間は大なり小なり様々な規律に則り共存し、生活をしています。ありふれた回答ではありますが、一切の規律の無い無秩序な空間では人は何とも共存出来ずただ滅びの一途を辿るでしょう。それ故に人々を統制する為の規律──法が必要なのです」
「では、抑止力とは?」
「これは先程の統制から繋がる回答になります。統制をとる為に法が必要と言いましたが、その法に何の罰則も無ければ誰がそれを守るというのでしょうか。故に法を犯した者には代償として罰則が与えられる。法を犯せば自分もあのような目に遭う──と言う抑止力があって、初めて人々は法を遵守するようになり統制のとれる生活が可能となる……と、私は考えます。言うなれば、人間社会にもっとも溶け込んだ恐怖政治のようなものかと」

 これもまたありふれた回答ですが。と付け加えると、ダルステンさんは驚いたように目を見張っていた。
 しかしそれも束の間、少し口の端を上げて彼は口を切った。