「私《わたくし》は身分や役職で敬意をはらう相手を決めておりません。私《わたくし》自身が敬意をはらうべきだと思った相手、思った場所、思った時で相手に敬意をはらい礼儀を尽くしているつもりでございます」

 真っ直ぐとダルステンさんの鋭い目を見上げ、言い放つ。これにダルステンさんはたじろぎ、言葉を返してくる事はなかった。
 その代わりと言ってはなんだが、

「流石は王女殿下。型に囚われない素晴らしいお考えです」

 ケイリオルさんがパチパチ、と拍手をしていた。これはきっと、褒められている……という事でいいのだろう。ケイリオルさんに向けて「どうも」と微笑み返し、改めてダルステンさんに視線を向けると。

「…………はぁ、こりゃあまた……とんでもない皇族がいたもんだ」

 腰に手を当てて項垂れながら、何やら重苦しいため息をついていた。しかしそのすぐ後にダルステンさんがパッと顔を上げて、

「だいぶ失礼な態度を取ると思うが、本当に楽にしていいんだな?」

 最初の堅い表情や喋り方ではなく、とても柔らかなそれで確認して来た。私は勿論それを承諾した。

「はい。私《わたくし》もそれを望みます」
「そうか、じゃあこの調子でいかせてもらいますわ。僕も……いつまで経ってもお堅い会話はどうも慣れなくてね」
「それは分かりますわ。私《わたくし》も、王女として人と話す事にはまだ不慣れですので」

 何だろう、ダルステンさんに少し親近感を覚えた。
 先程よりもずっといい空気になった部屋で、私達はようやく席について話し合う事に。長椅子《ソファ》に向かい合う形で座り、いつの間にかケイリオルさんが入れてくれた紅茶で喉を潤して、私は単刀直入に切り出した。

「話というのは、此度の連続殺人事件の犯人についてなのです。話……と言うより、直談判と言った方が良いでしょう」

 皇帝の側近たるケイリオルさんと、司法部部署長なんて役職にまで上り詰めるようなダルステンさん相手に、腹の探り合いなんて自殺行為に等しい。私はこれでも勝ち目が全くない戦いはしない主義だ。
 ならば私に出来る事は真正面からの強行突破、ただそれのみ!
 私の要件を察したらしいダルステンが真剣な面持ちとなる。しかし私は自分を鼓舞し、怯む事無く直談判する。