〜三日前〜

「本日は私《わたくし》の身勝手な希望の元、このような話し合いの席を設けていただける事となり幸甚の至りと存じます」

 ポカーンとする司法部部署長さんに向け、私は優雅に一礼した。ケイリオルさんに何とか話し合いの席を設けてくれないかと頼み込み、こうして奇跡的に実現した場。
 司法部部署長さんもケイリオルさんもお忙しい中、合間を縫ってこうして私に時間を下さったのだ。それに感謝し、決してこの時間を無駄にさせないようにしないといけない。

「……いつまで呆けてるんですか、ダルステン部署長」
「あっ、アミレス・ヘル・フォーロイト王女殿下にご挨拶申し上げます。僕……じゃなかった、私はダルステンと申します。司法部部署長を任される者です」

 ケイリオルさんに肘で小突かれた司法部部署長さんがビシッと姿勢を正し、深々と頭を垂れた。ダルステンさん……ハイラから聞いていた通りの名前だ。

「顔を上げてください、今回ばかりはそのように畏まる必要もありません。この場は私《わたくし》たっての希望ですので、どうぞ、楽にしてください」

 その方が話し合いもしやすいでしょうから。とニコリ微笑む。するとダルステンさんがビクッと驚いたように肩を跳ねさせた。

「ダルステン司法部部署長の話は以前耳にした事があります。若くして司法部に重用される程の秀才にして、誰よりも地道で確実な努力と準備をして裁判に挑み、必ず最も法に従った判決を下す方。我が帝国の絶対的な法の番人と呼ばれる程の方。なんの力も無く、立場も無い私《わたくし》なぞがこうして言葉を交わせる方でない事は重々承知の上……ですがどうか、少しだけ、私《わたくし》に貴方の時間をくださいまし」

 改めて、頼み込むように頭を下げる。皇族がこうしてみだりに頭を下げるものではないと分かっている。分かってはいるが……下げる必要がある場面で何もしない訳にはいかない。
 今回は私から彼等に話を聞いて欲しいと頼み込んだのだ、私がこうして頭を下げなくてどうする。私は、しょうもないプライドで礼儀を弁えない人間にはなりたくないのだ。

「……っあ〜〜、ケイリオル殿よォ……王女殿下はいつもこうなのか?」
「はい。いつもこうです」
「はぁ…………とにかく、皇族が平民相手に頭を下げないで下さい。確かに僕は司法部部署長なんて役職についているが、いつも周りから舐められてる平民なのでね。王女殿下に頭を下げられても困るんですよ」

 顔を上げると、そこには困り顔のダルステンさんがいた。しかし、私もそう易々とは引き下がれない。