「あのクソガ──……愛し子が両国の関係なんてものに気がつくと思いますか?」
「ライラジュタ卿、素が……それはともかく。確かに、そのような事に彼女が気づくとは到底思えません」

 ライラジュタが意見を口にすると、ノムリスがそれに同意した。ノムリスだけでない、この場にいる者全員がそう思っていた。
 神々の愛し子相手に何とも失礼な言い方ではあるが…………これが事実であり、庇いようも無ければ庇う気にもならない愛し子にも多少の問題はあると思う。

 僕達は彼女を保護してからずっと、幼さ故かとても我儘で高慢で自己中心的な彼女に振り回され困らされて来た。何をどう生きていれば、あんなにも自分が世界の中心だと信じて疑わないように考え振る舞えるのか全く分からない。
 アウグストの報告通り、彼女は何度僕達が注意しようと全くそれを聞いてくれない。だが彼女は神々の愛し子である為、実力行使に出る事は出来ない。
 本当に、物凄く、手を焼いているのだ。

「愛し子の妄言を信じる訳ではないけど──そもそも十七年前に突然フォーロイト帝国側から休戦を提案した理由も分かっていないんだ。確かにいつ戦争が再開してもおかしくはない……これからはフォーロイト帝国とハミルディーヒ王国の動向にも目を光らせるようにしよう」

 フォーロイト帝国……姫君は今頃どうしてるだろうか。最近は何やら大規模な慈善事業に励んでいると、こっそり帝都に偵察に向かわせたラフィリアから聞いたけれど。
 はぁ、姫君に会いたいな。姫君に迷惑がかかる可能性があるから、手紙は送れないし……必ず、彼女にまた会いに行かなきゃいけないのに。

 会いに行く機会が全く無い。何だか今とても僕的にあんまりよろしくない状況になっていそうなんだよね。何だろう……とても嫌な予感がする。
 何だかとてもおぞましい事を考えられているような、何か大変な障害物が増えたような。胸に謎のモヤモヤがつっかかっていてムカムカする感じだ。