アルベルトと戦った時……純粋な力の差では大人にも男の人にも勝てないと、改めて思い知った。どれだけ私が策を巡らせても、剣を扱えても、力勝負や体力勝負となれば勝てる可能性がかなり減ってしまう。
 最初から殺害目的の戦闘や守る対象のいない戦闘であれば、その限りでは無いと思いたいけど……生憎と、私の人生最大の敵は殺せない。
 そのくせ、相手は極悪非道の男だから平気で私の仲間を人質に取ったり手を出したりするかもしれない。もしそうなったら、私は確実に負けて殺されるだろう。

「力でも、体力面でも、私はどう足掻いても男の人や大人には敵わないの。今まで何とか渡り合えたのは、相手が先入観で私を侮ってくれたから……ずる賢く魔法と愛剣の能力を使っても、多分、私はフリードルや皇帝には勝てないと思うの」

 ただ殺すだけならまだ勝ち目はあった。でも、この体がそれを許さないから。簡単に殺されないように強くなろうと決めたはいいけど、果たして強くなった所でフリードルや皇帝相手に私は戦えるのかと不安になったのだ。

「……そりゃ、お前は女の子なんだから男に力で敵う訳ねぇだろ」

 カイルがボソリと何か呟いた。何て言ったのと聞き返そうとした時、

「なぁ、アミレス。お前はまだ愛されたいって思ってんの? それとも、『愛するお父様の手で死ねるのならば本望です』って思ってんの?」

 まだ幼さの残る顔で真剣な表情を作り、カイルはそう問うて来た。
 それはアミレスのSSにもあった、家族を心から愛している彼女らしい一文……。

「半分半分よ。私はそんな事思ってない……けど」
「アミレスがそう訴えかけてくる感じ?」

 けど、と言葉を詰まらせた所、アミレスの残滓の事を話した覚えは無いのに、カイルがズバリ言い当ててきた。まるでそれをよく知っているかのように、理解ある優しい瞳で。

「……えぇそうよ。もしかして貴方も覚えがあるのかしら」
「まぁな。俺は兄貴達とか心底どうでもいいんだけどさ、カイルはずっと認めて貰いたがってるんだよ。お陰様でもうかれこれ十年近く自分の心に嘘をつき続けてるっての」

 カイルは天を仰ぎながらやれやれ、と肩を竦めていた。
 そう言えば、ゲームでカイルは家族に認められたがっていたものね。彼もまた、私と同じようにこの体の残滓に悩まされているみたい。
 自分の心に嘘をつき続けてる、なんて……言い得て妙ね。