「……ふぅっ、いきます!!」

 剣を構えながら突進する。予想通りエンヴィーさんは剣を大きく振りかぶろうと足の向きをほんの少し変えた。
 視線はずっとエンヴィーさんを捉えたまま、耳を研ぎ澄ましほんの少しの僅かな土を踏む音でそれを判断する。
 エンヴィーさんは向かって右に剣を振る。それなら私は……上に躱す!

「っ!」
「おっ」

 エンヴィーさんの剣先が当たる寸前で飛び上がり、彼の頭上を通り超えて体を捻り着地する。そしてその瞬間、私は思い切り頭を下げる。
 先程私の顔があった辺りにてエンヴィーさんの剣が空を切る。誰だって、背後に飛んだ事が分かればその対策にすぐさま振り返って剣を振る事だろう。
 それぐらい私も読んでいた。だからこそ頭を下げ、剣が振られた事を確認し、曲げていた膝をバネのように伸ばして急速にエンヴィーさんの懐にまで潜り込む。
 そして、ここぞとばかりに剣を振──

「はいそこまでー、二十秒経ったぜ姫さん」

 ──れなかった。なんと、もう二十秒経ってしまったらしい。

「っそんなぁぁぁぁああ! もうちょっとで一撃入れられたのに!!」

 悔しさのあまりその場で剣を手放し頭をわしゃわしゃとする。ボサボサの頭で項垂れていると、エンヴィーさんが私の肩を叩いて笑顔で、

「今までの中で一番良い動きでしたよ。でも今の姫さんにはちょっと向いてないっすね、もうちょっと体が出来てからの方がいいっすよあの動きは。まだ成長途中の体じゃ膝やら足への負荷がちょっと……」
「うぅ……褒めるなら褒めるだけにしてくださいよぉ……」

 ダメ出しをしてきた。なんとこの人、持ち上げて落としてきたのだ。しゃがみこんでわざとらしく半べそをかく私の頭を、エンヴィーさんは同じようにしゃがみこんでポンポンと優しく叩いた。

「今回は時間制限つきの早期決着想定で動きを封じるっつぅやつだったんでこんだけ言いましたけど、普通の特訓だったらまぁ褒めちぎってたところっすよ? 普通の人間でもあんだけ動ける奴は珍しいのに、姫さんみたいな小さい女の子がやったンすから」

 拗ねる私を宥めるようにエンヴィーさんは優しい笑顔を浮かべて言った。その言葉に単純な私は満足してしまい、「…………なら良いです。でももっと褒めてください」と調子に乗った事を言い、エンヴィーさんに「生意気な教え子だな〜!」と髪を掻き乱されてしまった。
 その後一度休憩を挟んでから特訓を再開し、私は何度も何度も様々な方法でエンヴィーさんの動きを封じようと努力したが、その日は結局叶わなかった。