二十二歳で帝国各部署登用試験を受け、倍率も難易度も高い司法部にて脅威の一発合格。入署してからも着実に経験を積み重ね、入署してからたったの五年で裁判を任された程の秀才。
 それ程の存在が何故、こうして結婚相手に思い悩むのか。それはそう──その目付きの悪い顔と司法部部署長なんていう行き過ぎた肩書きの所為である。
 ダルステンは当時出世を拒んだ。金も名誉も要らないから今の地位のままでいたいと。何せ部署長と言う存在は、仕事量が尋常ではないと知っていたから。

 加えて、『ある程度偉いならいいんだけどぉ、やっぱり管理職とかはちょっとね?』『偉すぎる人はちょっと〜』と……偉すぎる立場の人は女ウケが良くない事を、街で行われる男女の集まりで知っていたから。
 その為ダルステンは出世を拒んだのだが、結果は見事に大出世。人事担当のケイリオルがあっさり決めた事により、彼は司法部部署長になってしまったのであった。

「気は済みましたか、ダルステン部署長?」
「全っ然済んでませんけどぉ〜〜?!」

 何処か煽るような言い方のケイリオルに、ダルステンは口の端をひくつかせ食ってかかる。

「さて茶番にもお付き合いしてさしあげたので、そろそろ本題に移らせていただきますね。えいっ」
「いだだだだだだだだだっ!」

 ずっと胸ぐらを掴まれていたケイリオルは、ダルステンの手首を掴んでは流れるような動作で捻り上げた。
 ただでさえ徹夜続きでボロボロの体にそのような攻撃が加えられた日には、そりゃあ悲鳴を上げるというもの。ダルステンの情けない悲鳴を聞きながら、ケイリオルは平然と本題に移った。

「実はですね、例の連続殺人事件に関して有力な情報を得まして。黒幕を確実に捕らえる為にも、許可状が必要なのですよ。あれが無くてはさしもの私といえど、容易に騎士団や警備隊を動かせませんから」
「分かったからとにかく離してくれませんかねぇえぇえええ!」
「ああはい。ではこちらに詳しい報告書がありますので、今すぐ目を通して下さいね」
「くっそぉ……これが各部統括責任者のやり方かぁ……!!」

 パッと手を離したケイリオルはすかさず報告書を手渡した。それを渋々受け取り、ダルステンは顔中しわくちゃにして悔しげに呟いた。
 実はケイリオル、近衛騎士団(帝国騎士団の中でも精鋭揃い皇帝直属の騎士団、それが近衛騎士団なのである。他にも帝国騎士団の中には細かい小隊や中隊などがある)の団長と渡り合える程の剣の腕前を持つ実力者なのだ。護身術や体術にも勿論長けている為、たまに視察と称して騎士団や兵団の訓練に顔を出してはその身一つで一個小隊を扱き倒す等、異次元の強さを誇る。
 故に、ケイリオルによる力業はめちゃくちゃ痛いのだ。今は働きたくないと主張していたダルステンが、あっさり折れてしまう程に。