そしてその時、ケイリオルは早速様々な手配を始めようとしていた。
 まずは帝国における司法機関たる司法部へと向かい、シルヴァスタ男爵の強制連行と家宅捜査についての許可状の発行──いわゆる捜査令状のようなものを部署長に書かせようと、まだ眠りについている司法部部署長を起こしに来たのだ。

「起きなさい、この出不精。仕事ですよ」
「う…………ケイリオル、殿……僕はこう見えても徹夜明けの仮眠中、なんだが」
「仮眠は後でして下さい。どうしても貴方に書いてもらわねばならない書類があるんですよ」
「えぇ……何それ絶対面倒事だろ……」

 司法部部署長室にて、長椅子《ソファ》で眠っており豪快ないびきを立てる男。それをケイリオルは一切の躊躇なく叩き起こした。
 不健康そうな重たい隈を拵えた鋭い緑色の瞳。無精髭を蓄えた顔。ボサボサの焦げ茶の髪。ヨレヨレで皺だらけの服を着た、おおよそお偉いさんには見えない風体の四十代ぐらいの男。
 彼は、わざわざここまでやって来たケイリオルの目的が自分であると知るなり、これが面倒事であるとすぐに悟った。
 苦虫を噛み潰したような表情となり、ぶつぶつと文句を垂れている。

「貴方もついつい働きたくなるような事を言ってあげましょうか?」
「もう綺麗な女性を紹介するって手には乗らないからな! あんたの紹介だと職場結婚になっちまうんだ、僕は同業者を妻にするのは嫌なんだ!!」
「まだ婚活してたんですか貴方……いい加減現実見て下さいよ、そもそも貴方は相手に求める理想が高すぎるんです。現実を見て下さい」

 ピシャリ、と軽く引き気味にケイリオルは言い切った。

「うるせー二回も言うな! ただでさえ司法部部署長なんて肩書きの所為で、気になった子に敬遠されるわ金目当ての女が寄って来るわで苦労してるんだぞ! あんたが僕に与えたこの役職の! 所為で!!」
「金目当ての女で妥協したら結婚出来るじゃないですか」
「誰が妥協なんかするか! 僕は僕を愛してくれる可愛い奥さんと愛のある結婚をし、愛に溢れた家庭を育むんだッ」
「はぁ、そうですか」
「興味無さそうな返事だなぁケイリオル殿よぉ!!」

 男は泣き言を叫びながらケイリオルに掴みかかり、騒ぎ立てた。しかしケイリオルはあまり興味が無いようで……それが言葉に現れてしまった為、男に詰め寄られている。
 日々司法部部署長という仕事の傍ら、愛のある結婚を目指して婚活に励む男の名は、ダルステン。
 平民でありながらその頭脳と判断力を買われ司法部に入署し、先代部署長にいたく可愛がられていた事……そして完璧な下準備を終えてから裁判に挑み、裁判で厳正な判決を執り行う姿勢を評価され──齢三十五にして司法部部署長に任じられた出世頭。
 ちなみに現在は四十一歳である。