(──急に、何を言い出すんだこの男は。アミィが家族からの愛を不要としているのは、昔からで………)

 その発言にシルフは困惑し、

(でも、待って。あの男の言い方だとまるで……アミィがまだ、家族からの愛を不要と割り切れていないみたいな……っ!)

 悲しい事実に気づいてしまった。あれだけ父親と兄を憎み嫌っていながらも、僅か十二歳の彼女はまだ……心の底で最低最悪な家族の愛を望んでいる。
 どれだけ求めても返って来る事は決して無いその望みの所為で、アミレスが憎き皇帝とフリードルを殺せないでいるのだと、シルフはついに気づいてしまった。

「……アミィは、皇帝と皇太子を殺さないんじゃなくて、殺せなかった……のか」
「そりゃそうだろ。アイツ……アミレス・ヘル・フォーロイトは元々生き死により家族からの愛を求めてたんだから」
(──そんな奴が、中身が変わったぐらいで家族を殺せる訳ねぇじゃん)

 シルフの行き着いた答えに、カイルはどこか自嘲気味に返した。
 カイル自身もそうであったのだ。どれだけ彼がどうでもいいと思っていても、彼の体は──カイル・ディ・ハミルは兄王子達や国王に認められたいと心の底で訴え続けていた。
 その経験があるからこそ、アミレスが体の残滓で苦しんでいるであろう事にはカイルも気づいていたのだ。

「姫、様は…………幼い頃、いつもいつも勉強されてました。礼儀作法も勉学もダンスも、全ての分野を精力的に学んでおられました……『少しでもいい子になったら、いつか兄様とお父様に褒めて貰えるかもしれないから』と自分に言い聞かせるように言って……」

 ハイラは知っていた。カイル以外で唯一、この中で変わる前のアミレスを知る彼女は震えていた。

「姫様は、変わられたのだと思ってました……でも、本当は変わってなどいなかったのですね。ほんの六歳にして全てを悟ってしまい、御二方に求めていた愛情を、その代わりとなる憎悪で……無理やり押し隠していた……だけだったのですね……っ」

 あまりの虚しさに口元を押さえて涙目になるハイラ。この中で最も長い期間をアミレスと共に過ごした彼女は、よりにもよって自分が最愛の人の事を見誤っていたのだと認識してしまった。